2022年07月01日号
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artscapeレビュー

宝石 地球がうみだすキセキ

2022年03月01日号

会期:2022/02/19~2022/06/19

国立科学博物館[東京都]

宝石は美術品か、工芸品か、それとも自然物か? もし宝石が美術品か工芸品なら美術館で扱うべきだし、自然物なら博物館の管轄だ。そもそも宝石というのは、美しい鉱石を加工して装飾などに使用するものなので、元は自然物であり、そこに手を加えて製品化した美術・工芸品でもある。言い換えれば、加工される前の原石はいくら美しくても芸術でもなんでもないし、逆に、宝石として加工されたものは石彫や木彫と同じく自然物とは言えない。だから、もし博物館で扱うなら宝石の成り立ちや種類の多様性を伝えるべきだし、美術館で見せるなら見た目の美しさや装飾技術の見事さを強調すべきだろう。だとするなら、科博で見せる今回の展覧会は外観の華やかさや美しさより、質実剛健でストイックな展示になるのではないか……。そんな余計な心配をしながら見に行った。

展示は、「原石の誕生」「原石から宝石へ」「宝石の特性と多様性」「ジュエリーの技巧」「宝石の極み」の5章立て。予想どおり、前半は宝石の成り立ちや種類にスペースが割かれていたが、けっして退屈なものではない。岩の塊にへばりついたガーネットやアマゾナイトの原石は、まるで癌のようで鳥肌が立ちそうだし、円柱の上に球体がついているマラカイトは、まさに名前どおりの男根状でつい見入ってしまった。また、原石が削られ磨かれて宝石になる技術は見事なもので、とりわけダイヤモンドに目を奪われる。同じサイズ、同じカットのダイヤモンドとクリスタル(水晶)を並べているのだが、輝きがぜんぜん違う。これまで、ダイヤモンドも水晶もガラスも大して変わらないじゃないか、を口実に妻に宝石を買ったことがなかったが、ここまで違いを目の当たりにすると、女性が(いや人類が、というべきか)ダイヤモンドに惹かれる理由が少しはわかった気がする。

後半は宝石の美しさに焦点を当てた展示で、いかにも高価そうな指輪、ネックレス、ブローチなどを並べて、もはや美術展というか宝飾店のノリ。値札をつけたらより興味が湧くんじゃないかと思うが、そんなことしたら招かざる客までおびき寄せることになってしまいかねない。展示品にはレプリカもあるが、大半は本物の宝石なので、めちゃくちゃ金がかかっているはず。いったい保険評価額はいくらくらいなんだろう。そういえば今回はいつもより会場にスタッフが多く配置されていたような気がするのは、警備も兼ねているからだろうか。

蛇足ながら同展には、古代から現代までの指輪を集めた国立西洋美術館の橋本コレクションも出ているが、考えてみたらなぜ橋本氏は西洋美術館に寄贈したのか。西美は周知のように、ルネサンスから近代までの絵画、彫刻、版画をコレクションの軸とする。橋本コレクションは西洋の指輪が中心なので、東博でもなければ科博でも東近でもないのは納得できるが、西美も少し違うような気がする。おそらく、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館のような、宝飾品も含めた広い意味でのデザイン専門の国立美術館が日本にないことが問題なのだ。


公式サイト:https://hoseki-ten.jp

2022/02/18(金)(村田真)

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