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Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村

2022年03月01日号

会期:2022/01/22~2022/04/10

東京都渋谷公園通りギャラリー[東京都]

叔母が昔、いらなくなったネクタイを使って器用に人形をつくってくれた。どこかにそんな教室かサークルみたいなのがあって、そこで覚えたのだろう。早くに連れ合いを亡くした叔母は、時間だけはあり余っていたから。でもその人形も、見慣れた柄とはいえ別に愛着が湧くわけでもなく、かといって捨てるのも忍びなく、結局どこかに仕舞い込んだまま忘れ去られている。これなどは典型的な「おかんアート」だろう。

展覧会をのぞくと、あるわあるわ、PPバンドを編んでつくった犬、軍手をリサイクルしたウサギ、緑色の紐を巻いてできたカエル、半透明のリボンを組み合わせた金魚、毛糸で編んだキューピーの服や帽子、マツボックリの笠のあいだに縮緬を詰めた置き物などなど。動物系が多く、カワイイけどなんの役にも立たない、けど邪魔になるほど場所をとらない、と油断しているうちに増殖して始末に負えなくなるオブジェたち。

同展をキュレーションした都築響一氏によれば、「メインストリームのファインアートから離れた『極北』で息づくのがアール・ブリュット/アウトサイダー・アートだとすれば、正反対の『極南』で優しく育まれているアートフォーム、それがおかんアートだ」。確かに、あり余るヒマと日用品にあかせてつくるおかんアートは、やむにやまれぬ衝動に突き動かされるアウトサイダー・アートの対極にあるが、しかし芸術性や経済的価値を追求するファインアートからの距離はアウトサイダー・アートに近いかもしれない。カッコよくいえば「ブリコラージュ」ということになるが、むしろ「ポップ民藝」といったほうがわかりやすい。民藝と同じく一つひとつは下手物だけど、それが何百何千と集まると体系が見えてきて、芸術的オーラまで帯びてくるから不思議だ。

会場に並ぶのは数千点。数が多ければ多いほど見る者は楽しめるけど、集め出せばキリがないし、なにより美術品と違ってすぐ飽きるので何度も見たいものではない。それでも、素材やモチーフに時代や地域性が感じられ、おかんのセンスの移り変わりもわかるという点で、歴史的・資料的価値は大いにある。これはやはりMoMA(Museum of Mom’s Art=おかん美術館)を設立すべきだろう。下手物といわれた民藝が100年後に東京国立近代美術館で回顧されたように、おかんアートもひょっとしたら本物のMoMAからお声がかかるかもしれない。


「Museum of Mom’s Art ニッポン国おかんアート村」展 会場風景[筆者撮影]


2022/01/22(土)(村田真)

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