2022年12月01日号
次回12月15日更新予定

artscapeレビュー

第一回ふげん社写真賞グランプリ受賞記念 木原千裕写真展「いくつかある光の」

2022年03月01日号

会期:2022/02/11~2022/03/06

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

1985年、福岡県出身の木原千裕は、昨年公募された第1回ふげん社写真賞でグランプリを受賞した。同年開催の第23回写真「1_WALL」でもグランプリを受賞しており、将来を大きく嘱望される写真家の登場といえるだろう。町口覚がデザインする作品集が刊行されたことを受けた本展は、ふげん社写真賞グランプリ受賞記念展である。

木原は「1_WALL」のグランプリ受賞作「circuit」では、同性の恋人との濃密な関係における葛藤を、写真を通じて昇華することをめざした。この「いくつかある光の」では、逆に「家族でもない、友人でもない、関係性に名前のない」人物にカメラを向けている。自宅から1,383キロも離れた東北の海辺の街に住むその人を4度訪ねて撮影した写真が、連続写真(シークエンス)の視覚的な効果を生かしながら淡々と並んでいた。たしかに「circuit」の写真と比較すれば、やや緊張感を欠いた穏やかな写真群だが、これはこれで見る者を引き込む魅力が備わっているように感じる。「何者でもない他者」の写真には違いないのだが、撮影を重ねるうちにふとした仕草や表情から、関係の深まりが伝わってくるのだ。木原の人間観察力の細やかさ、微妙な気配を感じとり、定着する、写真家としての能力の高さがよく伝わってきた。

上々の出来栄えといえそうだが、彼女の潜在能力と器の大きさは、こんなものではないと思う。次作がどうなっていくのかがとても楽しみだ。

2022/02/19(土)(飯沢耕太郎)

2022年03月01日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ