2022年07月01日号
次回7月15日更新予定

artscapeレビュー

開館40周年記念 白井晟一 入門 第2部/Back to 1981 建物公開

2022年03月01日号

会期:2022/01/04~2022/01/30

渋谷区立松濤美術館[東京都]

一昨年の世田谷美術館の「作品のない展示室」、昨年の大阪市立美術館の「美の殿堂の85年 大阪市立美術館の展示室」と、コロナ禍で企画展が開けないこともあって、ここ2年ほど作品を並べないで展示室だけを見せる展覧会が相次いでいる。府中市美術館の「池内晶子展」もほとんど空っぽだったが、よく見ると糸が垂れ下がっていたっけ笑。空っぽの展示室を見せるのは、企画展が開けないならいっそのこと展示室を開放して、美術館建築について再認識してもらおうとの意図がある。「白井晟一入門」の第2部も、ガランドウの展示室を公開しているが、これは企画展が開けないからではなく、まさにこれ自体が企画展であり、白井の設計した美術館全体を「作品」として体験してもらうためだ。ちなみに第1部の「白井晟一クロニクル」は見ていないので、白井については無知に等しい。

また個人的な話になるが、ぼくが最初に松濤美術館を訪れたとき(かれこれ40年ほど前)、ファサードが要塞のようにいかついことや、建物の中央に楕円形の吹き抜けの池があること、展示室の壁面が大きくカーブしていること、上階にお茶しながら鑑賞できるサロンがあることなど、美術館にしてはクセが強くてあまり好きになれなかった。いまでも好きとはいえないが、ほかの凡百の美術館と違って唯一無二のデザインであることには敬意を払いたい。コレクションや活動内容は別にして建物だけでいうと、例えば東京都現代美術館とどっちを残してほしいかと聞かれれば、迷わず松濤美術館を選ぶくらいの愛着はある。

今回初めて美術館の平面図を見た。ファサードが凹むように湾曲しているが、そのカーブは建物の中心に位置する池の楕円形や、その奥の展示室のカーブとも呼応していることにあらためて気づく。また当初案では、エントランスから真っ直ぐ進んで池をまたいでブリッジを渡り、回廊から展示室を見下ろしながら地下に降りていく導線だったという。ところがスペースの都合で、エントランスからブリッジを渡らず左側のロビーを抜けて階段を降り、展示室に行くように変更された。ブリッジと回廊は普段は閉鎖されているが、この期間は公開されているので、ブリッジを渡って回廊に出て展示室を見渡してみた。すると、階段を降りて展示室に入る現在のアプローチとでは、展示作品とのファーストコンタクトがまったく異なるであろうことが想像できた。この導線の変更は、設計者にとっても来館者にとっても残念なことだ。

地下の展示室から螺旋階段を上って2階へ行ってみる。普段は意識していなかったが、この螺旋階段もなかなか味わい深い。2階の展示室は大きいサロンミューゼと小さい特別陳列室に分かれ、サロンでは以前コーヒーが飲めたと記憶する。特別陳列室は小さくて天井も低いので、素描や小品など近い距離で作品を鑑賞できるようになっている。つまり地下の展示室に比べて親密な空間を目指しているのだ。しかしこうした空間の差別化も徐々になし崩しになり、均質化して、ほかの美術館とあまり変わらなくなってしまった。白井によれば、「デパートの展覧会場の二番煎じみたいなことを追わない、創意によった使い方のできる区民のための美術館を計画した」が、果たしてどこまで実現しているのか。


渋谷区立松濤美術館の螺旋階段[筆者撮影]


2022/01/27(木)(村田真)

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