artscapeレビュー
アントワン・ダガタ「VIRUS」
2022年04月01日号
会期:2022/02/03~2022/03/06
MEM[東京都]
フランスの写真家、アントワン・ダガタは、これまでも生と死の境界領域の事象をテーマとして作品を制作・発表してきた。その彼にとって、2020年から世界中を覆い尽くしたコロナ禍の状況は、避けて通れないものだったのではないだろうか。2020年3月にフランス全土のロックダウンが始まった、その時期から制作が開始された本作「VIRUS」は、まさに強い必然性を感じさせる作品として成立していた。
ダガタは、被写体の温度を感知して色彩のスペクトラムとして表示するサーモグラフィを写真画像として提示することを試みる。人気のない都市の街路と建物(路上生活者の姿だけが見える)、及び新型コロナウィルス感染症の患者たちが運び込まれて治療を受けている病院の内部を、サーモグラフィを使って撮影した画像が交互に並ぶ構成は衝撃的であり、強い説得力を持つ。同年7月のアルル国際写真フェスティバルでの展示(その後、メキシコ、スペイン、イタリア、中国、韓国、ウクライナに巡回)では、1,111枚のプリントをモザイク状に並べるインスタレーションの形で発表された。今回のMEMの展示はスペースの関係で33点のみだったが、ハンネミューレのミュージアム用紙に、やや色が滲むようにプリントされた写真群は、圧倒的なパワーを発していた。
多くのアーティストたちにとって、「コロナ時代」の意味を問い直していかなければならない時期が来つつあるいま、ダガタの仕事は、コロナ禍を写真でどのように捉え、表現していくかを推し量る指標となるのではないだろうか。
2022/03/02(水)(飯沢耕太郎)