artscapeレビュー
LILY NIGHT『ABSCURA』
2022年04月01日号
発行所:赤々舎
発行日: 2022/02/22
リリー・ナイト(旧名はLily Shu)は1988年、中国・哈爾濱生まれ。埼玉大学、ケント大学(イギリス)、東京藝術大学大学院などで学び、2017年頃から写真作品を発表し始めた。本作『ABSCURA』は、2017年に東川町国際写真祭赤レンガ公開ポートフォリオオーディションでグランプリを受賞した、いわば彼女のデビュー作といえる仕事である。
2016年の冬と夏に、両親が来日して、東京で一人暮らす彼女の部屋を訪れ、ともに数日を過ごす──そのやや特異な体験を横軸にして、過去と現在、内と外の写真がコラージュ的にちりばめられ、Abstract(抽象)とObscura(写真機の原型であるCamera Obscura)を合わせた造語である「Abscura」として再構築されていく。筆者も赤レンガ公開ポートフォリオオーディションのレビュアーの一人だったので、その鮮やかで力強い写真構成の能力に強い印象を受けたのだが、いまあらためて見直しても、抽象性と物質性を見事に融合させた写真群には高度な表現力が発揮されている。
リリー・ナイトはその後、いくつかのコンペで入賞を重ね、個展を開催している。写真集『ABSCURA』の出版記念展として、リコーイメージングスクエア東京で、同名の展覧会も開催された(2022年2月10日〜28日)。ただそれらを見る限り、たしかに表現は精緻かつ複雑になってはいるが、本作のテンションの高さを越えていないのではないかと感じる。スケールの大きな才能であることは間違いない。次の一手でどう動いていくのかに注目したいものだ。
2022/03/19(土)(飯沢耕太郎)