artscapeレビュー
若山美音子「マグノリアの香り」
2022年04月01日号
会期:2022/03/08(火)~2022/03/21(月)
ニコンサロン[東京都]
若山美音子は中国・四川省成都に生まれ、四川大学外国語学部日本語学科を卒業後に来日して、早稲田大学政治経済学部で学んだ。2000年頃から写真作品を制作し始め、瀬戸正人が主宰する「夜の写真学校」(Place M)で学ぶ。ニコンサロンでの個展は初めてだが、いくつかのギャラリーで個展を開催し、写真集『遠い呼吸-A distant breath-』(Place M、2020)を出版するなど、写真家としてのキャリアを伸ばしつつある。
今回の展示作品は、コロナ禍以前に、故郷の成都を中心に撮影した写真をまとめたもので、前作と比較しても視点のとり方に揺るぎない自信を感じることができた。若山の写真を見ると、特に2010年代以降の中国では、かつての日本の1970-80年代のように、都市の光景が大きく変わりつつある時期に差しかかっているのがよくわかる。古い建物や街路が新たに建て替えられ、人のたたずまいも様変わりしつつある活気あふれる街に、若山はきちんと正対してシャッターを切っている。おそらくあと10年も経てば、このハイブリッドな状況は失われ、均質な風景に覆い尽くされてしまうだろう。その意味では、新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響で自由な渡航ができなくなったここ2年余りのロスは、とてももったいなかった。機会があれば、この続編をぜひ見てみたい。
なおタイトルのマグノリアは、春から夏にかけて花弁に糸を通して成都の街で売られている花だそうだ。その濃密な匂いが漂ってくるような写真群だった。
2022/03/09(水)(飯沢耕太郎)