artscapeレビュー
アレック・ソス Gathered Leaves
2022年09月15日号
会期:2022/06/25~2022/10/10
神奈川県立近代美術館 葉山館[神奈川県]
もし、「アメリカ写真」というようなカテゴリーを想定することができるなら、アレック・ソスはその正統的な後継者といえるだろう。「アメリカ写真」というのは、あくまでも個人的な動機によって、未知の何ものかを探求してアメリカ各地を彷徨し、目にしたものを撮影して一束の写真として提示するような写真家のあり方で、ウォーカー・エヴァンズからロバート・フランクを経て、ゲイリー・ウィノグランド、スティーブン・ショア、ジョエル・スターンフェルドらに受け継がれていった。それぞれの写真のスタイルは異なっているが、現実世界の眺めを正確に描写することを心がけながらも、その背後(裏)に潜む見えないヴィジョンをこそ捉えようとしている。アレック・ソスは実質的なデビュー作といえる「Sleeping by the Mississippi」(2004)以来、まさにその「アメリカ写真」の典型ともいうべき作品を発表し続けてきた。
今回の、日本での最初の本格的な回顧展となる「Gathered Leaves」には、「Sleeping by the Mississippi」をはじめとして、「NAIAGARA」(2006)、「Broken Manual」(2010)、「Songbook」(2015)、「A Pound of Pictures」(2022)の5シリーズからピックアップされた、約80点が出品されていた。まだ初々しい眼差しを感じさせる「Sleeping by the Mississippi」から、洗練の度を増した近作に至る写真群を見ると、8×10インチ判の大判カメラによる、色彩や空気感をヴィヴィッドに定着したカラー・プリントという基本的なラインは維持しながらも、テキストと写真との関係、印刷媒体としての写真のあり方、音楽や詩と写真との結びつきなどに目配りしつつ、自らの作品世界をしっかりと構築していったソスの揺るぎない歩みが浮かび上がってくる。新作の「A Pound of Pictures」では、アメリカ各地で無名の人々によって撮影されたヴァナキュラー写真に着目することで、「写真による写真論」への関心を深めている。現在進行形の写真家としての彼の全体像を、的確な写真の選択・構成で見せたクオリティの高い展示だった。同時に刊行された小ぶりなカタログも、ソスへのインタビューを含めてとてもよくまとまっている。
2022/07/28(木)(飯沢耕太郎)