2022年12月01日号
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artscapeレビュー

あごうさとし×中西義照『建築/家』

2022年09月15日号

会期:2022/07/29~2022/07/31

THEATRE E9 KYOTO[京都府]

個人住宅の設計を手がける建築士の夫(中西義照)と、住まい方アドバイザーとして家づくりのソフト面を担当する妻(中西千恵)。公私ともにパートナーである二人が出演し、「もし自分たちの理想の家を建てるとしたら」というプロセスを会話で構築していく演劇作品。クレジットに「作|中西義照、中西千恵」、「演出|あごうさとし」とあるように、実在する更地を二人が見に行き、「この土地に家を立てるとしたら」という仮定の下で交わした会話がベースとなっている。出発点はフィクションだが、「家」を起点に、普段のそれぞれの仕事内容、互いを尊重し合う二人の距離感、「何を大切に生きるか」という人生観、子どもの成長や親の認知症など「家族」を取り巻く時間の流れを垣間見せる点ではドキュメンタリー演劇ともいえる。また、省エネ住宅の設計の基準値からは、個人の住宅というミクロな視点を通して、地球環境という大きな射程が見えてくる。

演出家のあごうは、実際のフリーアナウンサーが出演する前作『フリー/アナウンサー』において、個人史と「日本におけるアナウンス史」を交差させつつ、「個人の自由な意見を封じられたフリーアナウンサー」をどう抑圧から「解放」し、「個人の声」を回復できるかという希求を提示していた。「建築家」という単語がスラッシュによって「建築」と「家」に分断されつつ結合するタイトルに加え、実際の職業人が本人として出演する本作は、『フリー/アナウンサー』の延長線上にあり、続編ともいえる。



[撮影:金サジ]


上演は、何もない舞台空間=文字通りの「更地」から始まる。約60坪のこの更地は、比叡山の中腹に広がる住宅地にある。二人の発想が独創的なのは、「家」の設計にあたり、「好きな木をどこに植えたいか」という植栽計画の妄想から始まる点だ。紅葉が楽しめ、夏は日よけ/冬は日差しを室内に取り込む落葉樹に、実のなる木。「森に包まれた家」というコンセプトから、敷地の四隅に木を植え、ガラス壁を多用した十字架型の間取りになった。生活導線、それぞれの仕事場の確保と居心地良さのバランス。「ソフト面」を決めるプロセスでは、妻の投げかけが会話を主導していく。

一方、中盤では、夫が建築士の視点から、「パッシブハウス」(太陽光や通風を利用して温度調節し、住み心地の良さを追求した省エネ住宅)の設計思想と、外壁から逃げる熱や気密性の数値の基準について解説し、「計画中の家」についても数値をシミュレーションする。その傍らでは、舞台スタッフによって平台や箱馬が積み上げられ、「家」が着々と建てられていく。



[撮影:金サジ]



[撮影:金サジ]


そして終盤では、この「家=舞台」の上で、営まれるであろう「二人の暮らし」が再現される。起床、家事、複数の案件を進める在宅ワーク、必ず一緒にとる夕食、「一人の時間」を大切にする食後の趣味の時間。合間を縫って、個室が多く暗くて寒かった「前の家」の記憶、「もっと気持ちのよい家で子育てしたかった」という後悔が語られ、季節の巡りとともに、子どもの独立や田舎の親の認知症など「不在の家族に流れる時間」が会話からのぞく。「家」は抑圧の装置ともなりうるが、ここに希望しか感じられないのは、(辛い)記憶のない「未来の架空の家」に向けられているからだろう。本作はその「建設プロセス」を、まさに舞台上にフィクションを立ち上げていく時間として提示する。



[撮影:金サジ]


「家」の設計とは、「どのように生きたいか」「何を人生で重視するのか」という自身の価値観や気持ちの言語化であり、そのプロセスを「対話」として提示した本作。「家づくりの顧客には、あまり話し合えていない夫婦もいる」という作中の発言は、本作の肝を逆照射する。そして、あごうの前作『フリー/アナウンサー』が、視聴者との一方通行の関係を解消し、「個人の声の回復」を「対話」へ向けて開くことを希求していたことを思い起こせば、本作は単に演出手法上の継続的発展にとどまらず、まさに「対話への希求」に応答していたといえる。

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