artscapeレビュー
馬場さおり「その男、 彭志維(ポン・ツー・ウェイ)」
2022年09月15日号
会期:2022/08/26~2022/09/08
ソニーイメージングギャラリー銀座[東京都]
2018年に九州産業大学大学院芸術研究科を修了した馬場さおりは、2021年から台湾の台南応用科技大学芸術学部で教鞭を執ることになった。今回のソニーイメージングギャラリー銀座での個展に展示されているのは、居住する台南で出会った一人の男を追ったプライヴェート・ドキュメンタリーである。
彭志維(ポン・ツー・ウェイ)は二人の娘を持つ客家人のシングルファーザーで、単身赴任して建築工事現場で働いている。馬場は、親しい関係になった「その男」に、ごく近い距離からカメラを向ける。撮られることを意識している写真がほとんどないところに、写真家とモデルという関係を超えた親密さ、感情の交流のあり方がよくあらわれている。実家で娘たちと戯れる彼、職場での彼、自宅でリラックスした表情で写っている彼──細やかなカメラワークによって、まさに体温を感じることができるような写真群が撮り溜められていった。
会場で展示されているメインの写真はモノクロームであり、余分な要素をカットして、二人の関係性に集中できるという意味ではうまくいっていたと思う。ただ、台湾特有の風土や空気感を写し込むという点では、カラー写真も必要になってきそうだ。今回の展示では、会場の中央部に布を垂らし、そこに台湾各地の祭礼などを撮影した映像作品(カラー)を上映するという試みもあったが、あまりうまくいっていなかった。この作品を撮り続けていく過程で、カラー画像をどう取り込んでいくかはひとつの課題になっていくだろう。まだ先がありそうなシリーズなので、今後の展開に期待したい。
2022/08/26(金)(飯沢耕太郎)