artscapeレビュー
川口翼「夏の終わりの日」
2022年09月15日号
会期:2022/08/25~2022/09/11
コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]
先日行なわれた第2回ふげん社写真賞の審査でグランプリを受賞したのは、1999年生まれ、21歳の川口翼だった。だが、川口は昨年の第1回ふげん社写真賞の審査でも最終候補に残っており、その時点で本展の開催が決まっていた。彼の写真世界が急速に進化し、大きく開花しつつあることを証明するのは、来年開催される第2回ふげん社写真賞のお披露目の展示になるだろう。だが、今回出品された「夏の終わりの日」の連作にも、彼の写真家としての才能は充分に発揮されていた。
川口の写真から見えてくるのは、彼の仕事が明らかに1970年代の「コンポラ写真」や「私写真」の系譜にあるということだ。特に鈴木清の『流れの歌』(1972)の強い影響が、斜めに傾いたフレーミング、ざらついた粒子(ノイズ)の強調などにあらわれている。だが、夏という特別な時期へのこだわり、甘さと苦さが同居する被写体の選択の仕方などは、単純に鈴木清の模倣というだけではなく、むしろ写真撮影・プリントを通して「私性の底に潜む普遍性」を引き出していこうとする彼のもがきのあらわれと見ることができる。その狙いは、ややマゼンタに傾いた色味の横位置の写真、30点をちりばめた今回の展示で、かなりよく実現していたのではないかと思う。
とはいえ、このままではノスタルジックな感傷に溺れた当世風の「私写真」に留まってしまうことになる。小さくまとまりがちな写真の世界をもう一度引き裂き、解体し、より切実でスケールの大きなものにしていくべきだろう。期待が大きいだけに、これから先の一年が正念場になってくるのではないだろうか。
2022/08/25(木)(飯沢耕太郎)