2022年09月15日号
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artscapeレビュー

紅花の守人〜いのちを染める

2022年09月15日号

会期:2022/09/03~未定

ポレポレ東中野ほか全国劇場にて順次公開[全国]

鮮やかな赤色を日本の伝統色では「紅(くれない・べに)」と呼ぶ。そもそもこれは中国・呉の国から伝来した藍という意味から「呉藍(くれあい)」と呼ばれ、後に「紅(くれない)」に変化した言葉だと言われる。藍はご存じのとおり、青色の染料だが、当時、日本でもっとも使われていた植物染料だったことから、ここでは染料全般を指す言葉として使われたのだろう。藍は庶民に広く親しまれた植物染料だったのに対し、紅は皇族や貴族ら高貴な身分にしか許されない特別な植物染料だった。なぜなら、金に匹敵するほど希少で高価なものだったから。現在、紅はもちろん藍ですら植物染料そのものが希少になってしまったが、実は山形県・最上川流域の小さな農村で原料の紅花生産と加工が密かに守り継がれているという。本作はその生産者たちを4年の歳月をかけて追ったドキュメンタリー映画だ。


©映画「紅花の守人」製作委員会
ナレーション:今井美樹
監督:佐藤広一
プロデューサー:髙橋卓也
唄:朝倉さや 音楽:小関佳宏
企画・製作:映画「紅花の守人」製作委員会
配給:株式会社UTNエンタテインメント
2022年/日本/85分/カラー/DCP/16:9


染料の紅がどのようにつくられるのかを知る人はどのくらいいるだろうか。この映画では、紅花の花びらを一つひとつ手で摘み取るシーンから始まる。非常に素朴で地味な作業だ。そして摘み取った花びらを丁寧に水洗いし、揉み込み、日陰で発酵させる。そして発酵が進んだ花びらを臼に入れて突き、手で丸めて平らに伸ばして、天日干しをする。保存と輸送に適したこの形を「紅餅」と呼び、これが消費地に運ばれて染色に利用されてきた。こうした昔ながらの生産と加工を淡々と繰り返す紅花農家をはじめ、大手繊維製品メーカーを辞めて草木染めを追究する京都在住の染織作家、紅花を使ったレシピ開発に臨む料理研究家、紅花摘みの体験をする近隣の小学生たちなど、紅を巡るさまざまな物語が交差し紡がれていく。特に染織作家がインタビューで語る紅に対する熱い思いは、“紅に魅せられた人”という形容がぴったりだった。

かつて平安時代の皇族や貴族らは自身が夢中になったからこそ、庶民に対し「禁色」のお触れを出して紅を独占した。もちろん現在、化学染料だけで染色は事足りる。それなのに紅花生産と加工が守り継がれている意味は何なのだろう。それは目にした人にしかわからない、得も言われぬ魅力が紅にはあるからなのかもしれない。




公式サイト:https://beni-moribito.com

2022/07/28(木)(杉江あこ)

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