artscapeレビュー
公文健太郎『NEMURUSHIMA』
2022年09月15日号
発行所:Kerler
発行日:2022年
公文健太郎はここ数年、精力的に写真集を刊行し、写真展を開催している。『耕す人』(平凡社、2016)、『地が紡ぐ』(冬青社、2019)、『暦川』(平凡社、2019)、『光の地形』(平凡社、2020)と続くなかで、彼が何を求め、何を伝えたいかも少しずつ見えてくるようになった。一言でいえば、日本の風土とそこに住む人々との関係を、写真を通して探求することといえるだろうか。かつて濱谷浩が『雪国』(1956)や『裏日本』(1957)などで試みたテーマの再構築ともいえそうだ。
今回、ドイツの出版社Kehrerから刊行された『NEMURUSHIMA(眠る島)』もその延長上にあるシリーズで、瀬戸内海の離島、手島(香川県)を撮影している。日本列島を巨視的な視点で見直そうとした濱谷浩とは対照的に、島というそれほど大きくないテリトリーを対象とすることで、多彩な地形、植生がモザイク状に絡み合う「小宇宙」の様相が、より細やかに浮かび上がってきた。特に今回は、人の暮らしのあり方を多めに組み込んでいることで、「土地と人の営みのつながり」を捉えようとする公文の意図が、よりくっきりとあらわれてきているように感じた。ややセピアがかった調子に傾きがちな彼のプリントワークが、このところずっと気になっていたのだが、それも写真一枚ごとに丁寧にコントロールされてきている。
こうなると、『耕す人』以来のシリーズをまとめて見る機会がほしくなってくる。美術館のような、大きめなスペースでの展示が実現できるといいのだが。
2022/09/02(金)(飯沢耕太郎)