artscapeレビュー
GELATIN SILVER SESSION SPIN-OFF PROJECT 写真への手紙
2023年04月15日号
会期:2023/03/03~2023/03/08
アクシスギャラリー[東京都]
「GELATIN SILVER SESSION」は、広川泰士、平間至、上田義彦、瀧本幹也らによって2006年からスタートした企画展である。デジタル化によって危機的な状況に陥りつつあった銀塩写真のプリント(ゼラチン・シルバー・プリント)の素晴らしさを継承していくという趣旨で、2019年の第10回まで続いた。その後、休止状態にあったのだが、今回は東京工芸大学写真学科との共同企画で、スピン・オフ・プロジェクトが実現することになった。出品者は、井津建郎、勝倉峻太、小林紀晴、瀧本幹也、田中仁、ハービー・山口、広川泰士、それに東京工芸大学の学生、17名が加わっている。展示には写真のほかに、それぞれの銀塩写真に対する思いを綴った「手紙」が添えられていた。
50年前の1970年に撮影した、学生運動のデモなどの写真をあらためてプリントしたハービー・山口のように、作品はやや懐古的な雰囲気のものが多い。そんななかで、富士写真フイルム製品137個のパッケージをモノクロームで撮影した勝倉峻太「137FILMS」の、意欲的な試みが目についた。東京工芸大学の学生たちの写真は、別な意味で面白かった。彼らは、まさにデジタル・ネイティブ世代であり、アナログカメラやフィルムに本格的に触れたのは大学入学後のはずだ。にもかかわらず、その魅力、可能性を強く認識し、かなり集中して作品制作に取り組んでいる。「父が保管していた使用期限を20年以上超えたフィルム」で撮影したという石井裕子の「アンソニー」、「4×5Filmで車を4分割に撮影をして、約7メートルのロールの印画紙にプリント」した町田海の「JAYS-His son」、「空間ごと切り取るフィルム」でヌード写真に挑んだ渡邊結愛の「自然美」など、さらなる展開が期待できそうな作品が並んでいた。一度きりで終わるのではなく、ぜひ今後も続けてほしい企画だ。
公式サイト:http://gss-film.com/en/exhibition/2023
2023/03/08(水)(飯沢耕太郎)