artscapeレビュー

森島善則「unreality flows」

2023年04月15日号

会期:2023/03/16~2023/03/26

gallery Main[京都府]

青、白、オレンジ、黄色、赤、緑などのカラフルで不定形な色面が、マーブル模様のように揺らめく。森島善則の作品は、抽象絵画やノイズを加えたCG画像、サイケデリックな実験映像のようにも見えるが、「光が反映した川面」を切り取った写真であり、加工は加えられていない。

「印画紙の表面に光の痕跡を記録する」というアナログ写真の本質を、「光を反映する水面」を撮ることで自己言及しつつ、抽象化を推し進めることで、写真/絵画の境界を曖昧化すること。森島の作品は、写真自体に対するメタ的な問いをはらむ。さらに、被写体の一部が、大阪の繁華街を流れる川面に反映した「巨大な電光看板の光」であることに着目すると、消費社会批評としても解釈可能だ。



会場風景


駅の構内や車両内、商業施設などの公共空間に加え、いまや個人の情報端末も広告で埋め尽くされ、消費を刺激する情報が液晶画面の中を流れていく。不快なものが一切取り除かれ、画像修整されたそれらは、森島の作品タイトルが示すように、まさに「unreality flows」だ。森島の写真は、広告の光を水面に反映した「虚像」として写し取り、色彩と光の魅惑的な乱舞に変換することで、実体がないからこそ幻惑的であるという広告の本質を突きつける。それは、広告が提供するのは視覚的快楽にほかならないことを暴きつつ、その快楽を抽出して純粋化することで、「消費のメッセージ」を無効化させてしまうのだ。



会場風景


「光の反映が揺らめく川面」を写した美しい抽象的な写真として、ドイツの現代写真家アンドレアス・グルスキーの「バンコク」シリーズが思い浮かぶ。だが、巨大サイズの写真の隅々までピントの合った高精細なグルスキーの写真を凝視すると、川面にはゴミが漂い、油膜が光り、消費社会の象徴が写り込んでいることに気づく。グルスキーの写真は、精緻な合成処理や厳格で幾何学的な画面構成により、カラフルな大量生産品が整然と陳列されたスーパー、無数の人々が蠢く巨大スタジアムのような商品取引所、巨大な高層建築、うやうやしく商品が陳列された高級ブランドの陳列棚など、グローバルな消費資本主義社会を象徴する光景を「非現実的で空虚なスペクタクル」として写し取ってきた。ゴミや油膜が浮遊するグルスキーの「バンコク」シリーズと、ただ美しい色と光の戯れとして抽出する森島の写真は、いわばと影と光なのだ。



会場風景



公式サイト:https://gallerymain.com/exhibiton_yoshinorimorishima_2023/

2023/03/19(日)(高嶋慈)

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