artscapeレビュー

山下陽平&伊島薫展 見せてはいけない。なぜなら・・・?

2023年04月15日号

会期:2023/03/16~2023/04/09

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

伊島薫は1990年代に「ヘアモード」と題するシリーズを発表したことがある(1994年に美術出版社から写真集として刊行)。当時はいわゆる「ヘアヌード」ブームの絶頂期で、ピュービック・ヘアを晒したヌード写真が蔓延していた。伊島は、なぜ「ヘア」にそれほどまでに注目が集まるのかという疑問をもち、あえてファッション写真の様式をそのまま借用して、モデルの顔と下半身だけを露出した写真を制作・発表したのだ。

東京ではひさしぶりの展示という本展の出品作「あなただけが知っている」を目にして、旧作の「ヘアモード」のことを思い出した。伊島の創作の動機となっているのは、いつでも既成概念への疑義と反抗であり、「見せてはいけない」画像のスクリーンショットを、カラフルなグラフィック作品に加工して展示した今回のシリーズにも、その身振りがそのまま受け継がれているように感じた。出品作はTシャツにもプリントして販売されており、それを購入した人だけが元の画像を見ることができる。いかにも伊島らしい、けれん味のあるプロジェクトだが、画像(どうやら女性器のようだ)のグラフィック処理があまりにも抽象化されていて、「見てはいけない」ものであるということが、よくわからなくなっているのが少し残念だった。

なお本展は、伊島と若手写真家とのコラボレーション企画「&伊島薫」の第一弾である。今回の山下陽平(1994年生まれ)は、スナップ写真における人物の顔の扱い方について問題提起する「シン・モザイク」シリーズを出品している。スナップ写真そのものの発想、技術が的確で、コロナ時代の都市環境をさし示すドキュメントとしても、しっかりと成立していた。「&伊島薫」の次の展開も期待できそうだが、伊島の新作による個展もぜひ見てみたい。

公式サイト:https://fugensha.jp/events/230316yamashitaizima/

2023/03/18(土)(飯沢耕太郎)

2023年04月15日号の
artscapeレビュー