artscapeレビュー

呉庭鳳「日日是好日」

2023年04月15日号

会期:2023/03/24~2023/03/31

BankART Station[神奈川県]

「台北市・横浜市アーティスト交流プログラム2022」の成果発表展。これはBankARTと台北国際芸術家村が毎年アーティストを相互に派遣し、約3カ月間滞在・制作するというもの。2005年度に始まり、コロナ禍で2020年度から中断していたが、2022年度に再開した。台北から来たのは呉庭鳳(ウー・ティンファン)で、1997年生まれ。ちなみに今回、日本から派遣されたのは1966年生まれの開発好明で、なぜかいつも台湾から来るアーティストのほうが若い。

呉は身近な風景や日用品を墨でサラッと描き、淡い色彩を施した一見イラストか童画のような絵を制作する。今回は正方形の画面に横浜で見た風景や風物を20点ほど描いている。崎陽軒のシウマイ弁当、横浜開港資料館の看板、中華街、スパゲティーナポリタン、赤レンガ倉庫など、横浜ゆかりの、というか地元の人にとっては陳腐ともいえるモチーフばかり。ただ、初めて台湾の外に出た彼女にとってはどれもよほど新鮮に映ったのだろう、一つひとつを確かめるように各モチーフの両側に手を添えている。まるで対象を抱えるようなこの仕草は、単に目に映ったものを機械的に描くのではなく、実際に行って、見て、味わい、体験し、理解して「自分のもの」にしたという納得感を表わしているのではないか。

おもしろいのは、ランドマークタワーみたいな巨大建造物から、作者の大好物というイチゴのような小さなもの、さらに海風や夜景といった風景まで、同じように両手で抱えていること。こうしたプリミティブともいえる表現のなかに、意外と人間が物事を認識していくプロセスの秘密が直感されているのかもしれない。


公式サイト:http://www.bankart1929.com/taipei_exchange/

2023/03/24(金)(村田真)

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