artscapeレビュー
台北と高雄 流行音楽中心の建築と展示
2023年04月15日号
台湾では、ついにOMAによる《台北パフォーミングアーツセンター》がオープンしたが、ほかにも海外の建築家による現代建築が登場している。ここでは台北と高雄の流行音楽中心(ミュージックセンター)を紹介しよう。いずれもホールや音楽関連の施設、そしてポピュラー音楽の歴史に関する展示空間を備えている。
台北では、巨大ビルの開発が進行中の南港エリアに行くと、ライザー+梅本による《台北流行音楽中心》が、コンサートは開催されていなくても、日曜日の出店で大賑わいだった。これは音楽育成のための産業区の棟と音楽史をたどる文化館が広場を挟み、さらに空中ブリッジで道路を横断すると、ギザギザで多面体的な造形の派手なホールがあり、想像以上に大きい。上部が外に張りだすデザインは過剰だが、よく考えると、街中のビルも2階より上を前面にだすことで、雨に濡れない通路を提供しており、これと同じ機能をもつ。文化館は、1930年代からの流行音楽史を紹介し、ヘッドフォンをつけてまわるが、音とともに時代・背景の変化を工夫して展示していた。1970年代にフォーク、80年代になると、ロックやアイドルといった流れは、日本と似ている。もっとも、80年代における政治的な民主化がもたらした「自由」は日本と比べて、重みが違う。権利関係をまとめるのは大変そうだが、日本にはこういう通史の常設施設がない(古賀政男音楽博物館はあるけど)。文化館はエレベータで最上階にのぼってから降りるという動線だが、ルートの途中、ガラス張りの階段を使うとき、ほかの2棟を見下ろすことができ、施設の全容がわかる。
4年前に訪問したときはまだ工事中だったが、スペインの建築家、マヌエル・モンテスリンによる水辺の《高雄流行音楽中心》も完成していた(もともとコンペでは、平田晃久案が惜しくも2位だった)。巨大な建築だが、これに沿って路面電車のルートが設定されているので、アクセスはしやすい。八角形を反復するデザインは、遠くからも見え、奇抜な造形だが、近づくと、内部の構造とは関係がなく、完全なハリボテである。フランク・ゲーリーの建築は、ハリボテでもカッコいいけど、残念ながら、そのレベルには達していない。さて、その展示は、台北と同様、ポップスとロックの歴史をたどる。こちらはインタラクティブな仕掛けを多用し、スタイリッシュだが、外国人にとっては、エリアごとに音を自動再生する台北の方が親切だった。いずれにしろ、音楽の展示は難しい。ちなみに、筆者以外に来場者は誰もいなかった。
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2023/04/05(水)(五十嵐太郎)