artscapeレビュー

山上新平「liminal(eyes)」

2023年04月15日号

会期:2023/03/04~2023/04/09

POETIC SCAPE[東京都]

海、あるいは波は写真の被写体としてとても魅力的であり、多くの表現の可能性を秘めていると思う。神話的といえそうなシンボリックな対象であるだけでなく、写真家に個別的、具体的な視覚的経験を与え、千変万化するその姿は尽きせぬ興味を喚起する。今回、POETIC SCAPEで展示され、bookshop Mから同名の写真集も刊行された山上新平の新作もまた、その海、あるいは波をテーマとしていた。

コントラストの強い黒白の画面は、張りつめた緊張感を湛え、山上が「見る」ことに集中していることが伝わってくる。彼の中心的な関心は、海面の複雑で微妙に変化する光と影の交錯に向けられているようだが、それだけでなく、海そのものの物質感をモノクロームに還元して捉え切ることを目指している。そのもくろみは、高度な構想力と技術力によって、ほぼ完璧に実現していた。

完成度の高いシリーズだが、逆にそのすっきり整えられたたたずまいにやや違和感も覚えた。写真集の裏表紙に、今回のシリーズとはまるで対極というべき、飛翔する蝶を捉えたカラー写真が掲載されている。山上は今回の「liminal(eyes)」シリーズの前に、蝶を集中して撮影していた時期があり、そこでは「触れるだけの眼」のあり方が探求されていたのだという。山上が写真を通じて世界を「見る」ことを、幅広く捉えることのできる写真家であることが、このエピソードからもよくわかる。次は一点集中ではなく、彼の多面的な眼差しが同居しているような作品を見てみたい。


公式サイト:http://www.poetic-scape.com

2023/03/09(日)(飯沢耕太郎)

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