artscapeレビュー
ホテル・モダン『KAMP/収容所』
2010年03月01日号
会期:2010/02/20~2010/02/21
スパイラルホール[東京都]
1997年より活動を始め、2000年に第一次世界大戦をモチーフにした作品で評価された彼らは、今作ではアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所の一日を描いた。舞台に敷き詰めけたジオラマ、そこを生きる人々。登場人物たちはすべて人形で、パフォーマーは黒子に徹する。主眼は再現可能性/不可能性にあるのかもしれない。けれど、ぼくの興味はアウシュヴィッツという「神話」の演劇的活用という点にあった。〈ホロコースト〉は、実際に起こった歴史的な出来事であると同時に、人間の冷酷さ非人間的な性格を語る人類の比較的新しい「神話」としてとらえられるものではないだろうか。現場でなにが起こっていたのか、その真相は永遠に再現しえない(すべての現場がまたそうである)としても、ぼくらはそれを「神話」としてならば大いに語ってきた。本作を見て、ジオラマや人形はこの「神話」を演劇として見るべきものにする有効な方法に思われた。生きつつもすでに死んでいる収容所の人々は人形(という役者)にとって適役だし、生々しさが希薄な人形の営みはそこで起きたことを冷静に想像するのにふさわしかった。ところで、アフタートークで何人かの観客がそんな虚ろな人形に感情移入したという話をして、メンバーたちと意見がかみ合わない場面があった。彼らにとって距離をとるための仕掛けが、アニメや人形に独特の関わり方をする日本人にとっては距離を縮める仕掛として機能したらしく、興味深い齟齬だった。
2010/02/21(日)(木村覚)