artscapeレビュー

フォースド・エンタテイメント『視覚は死にゆく者がはじめに失うであろう感覚』

2010年03月01日号

会期:2010/02/10~2010/02/12

VACANT[東京都]

タイトルのような定義(これは劇の最後の一言となる)がひたすらつぶやかれ続ける。哲学的だったりもするし、きわめてどうでもいい常識とも言い難い語彙説明だったりもする。男が1人。ときどき水を飲んではつぶやきを再開する。1時間。この男は役者だろうけど役柄はまったく不明で、そもそもなんのために定義が語られているのかわからない。宇宙の使者?なんて憶測もあやふや。それがなんで退屈でないのか、いやむしろはっきりと見応えのある時間だったといえるのかは、答えるのがとても難しい。男が語るのを聞く。この最小限の演劇の状態しか設えられていなくとも、だからこそ感じられるものがある。波紋のように言葉が聞き手に広がり、想像力が刺激される。役者のちょっとした仕草から見る者は沢山のありうる解釈を展開させられる。いや、これはいわゆる「演劇」だけに特化すべき「状態」ではなかろう。ブログ、mixi、twitterのつぶやきと向き合う感覚にとても近い。むしろ、そうしたメディアに演劇的ななにかがあることを認識させる作品だったのかもしれない。

2010/02/11(木・祝)(木村覚)

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