artscapeレビュー
小泉明郎 展「A LOVE SUPREME 至上の愛」
2010年03月01日号
会期:2010/02/12~2010/02/28
ギャラリーRAKU[京都府]
小泉明郎はイギリスの美術大学で学び、日本と欧米で映像やパフォーマンス作品を発表しているそうだ。関西では恐らく今回が初個展ではないか。恥ずかしながら私は彼の存在を知らなかった。展示のメインは、初日夜に行われたパフォーマンス《男たちのメロドラマ#3》の映像と舞台装置のインスタレーションで、別室では過去の3作品も上映された。同作品はは三島由紀夫の『金閣寺』を題材にしたものだが、小説の主人公というより三島自身をモデルにしたと思しき登場人物が、切腹すると思いきやマスターベーションを始めたのには驚かされた。濃密な暴力性にたじろぐとともに、右寄りの人たちに見つかったらえらい目に遭うんじゃないかと心配になった。旧作も人の神経を逆なでするまがまがしさが充満しており、《僕の声は、きっとあなたに届いている》は、青年が携帯電話で母を温泉旅行に誘う情景と思いきや、実は企業のカスタマーサポートに向かって一方的に喋っているという不条理なものだった。また《ヒューマン・オペラXXX》は、ある人物から深刻な体験を聞き出すインタビューだが、取材の過程で相手の顔に落書きしたり、訳のわからない道具を持たせたりして徹底的におちょくるというもの。正直見ていて不愉快になったが、その一方で日本人アーティストでここまでニヒルな作風を通す人は珍しいのではないかと感心もした。決して好きとは言い難いのだが、見る者の心にトラウマのような傷を刻む強烈な作品であることは間違いない。
2010/02/19(金)(小吹隆文)