2020年10月15日号
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artscapeレビュー

『残照~フランス・芸術家の家~』

2010年03月01日号

新宿バルト9[東京都]

会期:2010/02/08、2010/02/11
小橋亜希子監督によるドキュメンタリー作品。「NHK-BSドキュメンタリー・コレクション」というテレビ放送の番組を映画館で公開する企画のひとつとして上映された。舞台は、フランスのパリ近郊。アーティストのための老人ホームで暮らす、年老いたアーティストたちの心情を、カメラは丁寧に浮き彫りにしてゆく。18世紀の貴族の邸宅を改装したこの施設では、ピアニストや彫刻家、画家、アニメーター、グラフィックデザイナーたちが創作活動に勤しみながら共同生活を送っている。彼らは、いずれも年老いたアーティストという点では共通しているが、その心の奥底はじつにさまざま。過去の栄光を頼りにして死を望んだり、子どもや孫にないがしろにされて深く傷ついたり、作品が売れたことに狂喜乱舞したり、新たなパートナーとともに暮らそうとして施設を出ようと画策したり、「アーティスト」というカテゴリーには到底収まり切らない、愛や欲望、悲哀といった人間の基本的な心模様が画面から溢れ出ている。たしかに特別な技能を持っているという意味でいえば、彼らは依然として超人的な「アーティスト」なのだろう。けれども、身体機能の衰えとともに隠せなくなったその技能の綻びが、彼らの世俗的で人間的な部分をよりいっそう際立たせていたのも事実である(くたびれた爺さんたちに恋心を寄せる老婦人たちの眼には、文字どおり星が入っている!)。この映像作品が教えているのは、いまも昔も、芸術はつねに世俗的な人間の営みのなかから生まれてきたのであり、美術と日常を峻別することじたいがきわめて不自然であるということだ。だとすれば、美術と福祉、あるいは美術館と老人ホームを区別する境界線そのものが、制度的に作られたものにすぎないのであり、つまりは正当な根拠に乏しいということが明らかになる。この芸術的な老人ホームは、もしかしたら日本の美術館にとっての未来像を先取りしているのかもしれない。

2010/02/08(月)(福住廉)

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