2020年03月15日号
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artscapeレビュー

5th Dimension

2010年03月01日号

会期:2010/01/21~2010/01/31

フランス大使館旧事務所棟4F[東京都]

「noman’s land」展とほぼ同時期に同じ会場内で催されたグループ展。吉祥寺のArt Center Ongoingのディレクター小川希のキュレイションによって、有賀慎吾、小川格、小林史子、柴田祐輔、早川祐太、東野哲史、山本篤、和田昌宏、SONTONの9組がそれぞれ作品を展示した。階下のぬるい雰囲気とは対照的に、いずれの作品も「イカレタ表現」ばかりで、おもしろい。しかも、フランス大使館という場の特性など端から無視した姿勢が潔い。なかでも際立って飛び抜けていたのが、東野哲史、柴田祐輔、山本篤。東野はみずからの鼻毛を水栽培で成育させようと試みる、現在進行形のプロジェクトを発表した。毎日の気温と全長を計測しながら記録した写真日記を見ると、基本的には全長1.1cmの鼻毛がそれ以上生長することはなく、むしろ黴が生えたり、水が変色したりと、周囲の環境の変化のほうが目につくが、この作品の醍醐味は「心なしか成長したかのような感じ」を追体験できる点にある。それは、実在的には錯覚以外の何物でもないにもかかわらず、感覚的にはひじょうに豊かな幻であり、それこそがアートの働きだったということを、東野の作品は静かに物語っているのである。一方、柴田祐輔と山本篤の映像作品は、2人が扮する駐輪監視員による支離滅裂な物語だが、これはタイトルに示されているように、「つながらない」ナンセンスストーリーというより、むしろ監視するという単調な仕事に隠された、ドラマティックな物語への欲望を極限化させた映像として見ることができる。山にハイキングに出掛けた柴田と山本は、その道中でなぜか巨大な落石に襲われ轢死するわ、弁当に盛られた毒で暗殺されるわ、挙句の果てにどこからともなく飛来してきた矢に背中を貫かれて悶絶しながら絶命してしまう。過剰に説明的な演技がおもしろい。だが次の瞬間、シーンは自転車をほんの数センチ動かして空間をこじ開ける、駐輪監視員の日常的な業務に切り替わり、仕事を終えたのだろうか、軽やかに歌を謳いあげながら自転車で帰宅する柴田の姿で唐突に映像は終わってしまう。一見すると、脈絡に欠けた断片的な映像にしか見えないかもしれない。けれども、駐輪監視員にかぎらず、およそ警備や監視といった、なんとも非人間的な労働の質を思い返せば、そうした労働者たちは、おそらくは柴田と山本が演じたような、じつに劇的でスペクタクルに満ち溢れた妄想を頭のなかで繰り広げながら楽しんでいるにちがいないと思わずにはいられない。ベタな撮り方でそう思わせる映像は、極端な妄想に具体的なかたちを与える、アートのもうひとつの働きにほかならない。ここに、アートがあった。

2010/01/28(木)(福住廉)

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