artscapeレビュー
NO MAN’S LAND 破壊と創造@フランス大使館
2010年03月01日号
会期:2009/11/26~2010/01/31
在日フランス大使館[東京都]
取り壊しが予定されている在日フランス大使館の旧庁舎内を会場とした展覧会。事務室や廊下、階段、地下室、中庭など、ありとあらゆる場所に70人ほどのアーティストによるサイト・スペシフィックな作品が展示された。謎に包まれた大使館に立ち入るという非日常的な経験も手伝って、そこで展示されるアート作品への期待が否が応でも高まったが、残念ながら目ぼしい作品はほとんどなかった。唯一、見応えがあったのは、「竹島」「対馬」「尖閣諸島」「北方領土」など、政治的な文脈に拘束されている文字を白いレースで編み上げた黒沼真由美。「日本の中の外国」という穴に、「日本の外の日本」をねじ込むことで、空間を水平的にとらえる地図的な想像力を強く刺激していた。さらに、黒沼は時間を垂直的にとらえる歴史的な想像力を働かせる仕掛けも忍ばせていた。それは、空間の壁面を深い青で塗り上げ、そこに毛糸で編みこんだ電気クラゲなどを置くことによって、展示室を広大な海の中に変貌させてしまったこと。この建造物が1957年にジョセフ・ベルモンによって設計されたという歴史的背景を考慮したのかどうか、いくつかの作品が「フランス」という記号を過剰に意識していたのとは対照的に、黒沼はそのはるか先の歴史を見通していた。そもそもフランス大使館が建造される前、この土地には尾張徳川家17代当主の徳川義親(としちか)の邸宅があったのだし、もっと時間をたどればそもそも海の底だったのだ。サイト・スペシフィックというのであれば、地球規模の歴史的な射程を用意しなければならないのではないだろうか。人がいないというより、アートが見当たらない展覧会だった。
2010/01/28(木)(福住廉)