artscapeレビュー
石子順造と丸石神
2010年12月01日号
会期:2010/10/16~2010/10/30
丸石神とは球体状の天然石に神が宿ると考える民間信仰。山梨県を中心とした地域に根づいており、美術評論家の故・石子順造が晩年にフィールドワークを行なったことで知られている。多摩美術大学芸術人類学研究所が企画した本展は、石子順造を理論的な糸口にしながら、遠山孝之による写真と小池一誠による石の作品を展示したもの。長い年月をかけて風雨や流水によって丸く削り取られた石を見ていくと、たしかに自然と芸術の境界が怪しく思えてくるし、真円とは程遠い歪な球体の造形に石子が近代の限界を乗り越える可能性を見出していたことにも頷ける。しかし、石子によって近代批判のための突破口として意味づけられた丸石神を、展覧会という近代的な文化装置のなかで見る経験には、やはり少なからず違和感を覚えざるをえない。写真であろうとオブジェであろうと、土地から切り離されたうえ、展示会場に移動させられた丸石神の数々は、展覧会という「見る制度」によって、造形的な美しさを際立たせる物体として否応なく見せられているからだ。けれども、丸石神には、造形的な側面と同時に、民俗学的・宗教的な側面があり、そこに民衆による声なき声が仮託されていることはいうまでもない。はたして、その多面性をとらえることができる文化装置はありうるのか。石子が近代的な表現概念の呪縛を問題視しながらも、ついに解放することができなかったという限界を思えば、わざわざ同じ轍を踏むことはあるまい。たんに石子の業績を再評価するだけでなく、石子がなしえなかった不可能性を受け止めながら、別のアプローチを切り開くことこそ、危急の課題である。
2010/10/22(金)(福住廉)