artscapeレビュー

悪魔のしるし『悪魔のしるしのグレートハンティング』

2010年12月01日号

会期:2010/11/11~2010/11/17

シアターグリーン・BASE THEATER[東京都]

いわゆるバックステージもの。「フェスティバル/トーキョー10」の公募に採用されて、新作を制作する劇団の演出家という設定。金欠だったり、役者と折り合いがつかなかったり、そもそも演出家本人が怠惰だったりしてなかなか上手くいかない。その様子は「悪魔のしるし」という劇団が今回遭遇した出来事をリアルに再現しているかのようだ。しかも、舞台上の劇団が上演しようとするのは「竜退治」というおとぎ話。伝説の竜を退治に向かったら、思いのほか竜がしょぼくて怒りにまかせて殺したという内容。これは「F/T」というイベントに参加してみたもののしょぼい作品しかつくれませんでしたという前述の話とパラレルなわけで、こうした入れ子状の構造が舞台に刺激を生み出していることは間違いない。では、「『しょぼい竜を退治した話』をしょぼくしか上演できなかった劇団の話」が悪魔のしるしによって見事に“しょぼく”上演されたのかというと、その点が微妙で、やたらとひとり喋りまくる「演出家の男」以外は、なんだか覇気のない役者たちの演技が続く。正直、舞台全体が上手く機能しているように見えないのだが、じゃあこれが上手く機能していたほうがいいのかというと難しいところだ。しょぼいものを見事に描くのは、しょぼいものをしょぼく描くことより滑稽で愚かしい場合が多い。じゃあ、しょぼいものはしょぼく描くのがいいかといえばすぐには首を縦に振れないし、だからといって、しょぼいものは描くべき対象ではないといい切るのも間違っている気がする。そういう問いを誘発したという点で本作は問題作に相違ない。

2010/11/13(土)(木村覚)

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