artscapeレビュー

ANPO

2010年12月01日号

会期:2010/09/18

アップリンク[東京都]

期待が高かっただけに、肩透かしを食らった。リンダ・ホーグランド監督による本作は、60年安保をテーマとしたドキュメンタリー映画。当時を知るアーティストなどへのインタビューと関連する美術作品を織り交ぜた構成は、全体的に単調で、同じ地点でぐるぐると何度も自転しているような印象を覚えてしまう。おそらく、それは対話の水準が肉体から離れていることに由来しているのではないだろうか。回顧的な言葉にしろ、心情的な言葉にしろ、いずれにせよそこで交わされる言葉には肉体の次元が大きく欠落しているため、正直にいえば、どこか空々しい。とはいえ、それが安保を知る世代にとってはある種のノスタルジーを、知らない世代にとってはある種の啓蒙の機会を、それぞれ与えることは想像に難くない。けれども、ほんとうに重要なのは、安保の問題がかたちを変えながら今現在まで継続していること、私たちの暮らしの根底を規定するアクチュアルな政治的課題であること、だからこそノスタルジーや啓蒙が不必要であるわけではないにせよ、その段階で満足しているようではまったく問題にならないことである。必要なのは、肉体で安保を受け止めることができる映像だ。たとえば沖縄在住の彫刻家・金城実と読谷村村議の知花昌一らによる反米軍基地闘争を追った西山正啓監督のドキュメンタリー映画「チビチリガマから日本国を問う!」は、被写体の肉体が安保と格闘しているばかりか、それらを伝える映像が鑑賞者の肉体に安保を強く働きかけてくる。これと比較すると、本作には映像の面でも言葉の面でも肉体を撃つほどの強さは感じられなかったといわざるをえない。

2010/11/05(金)(福住廉)

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