artscapeレビュー
天狗推参!
2010年12月01日号
会期:2010/09/25~2010/10/31
神奈川県立歴史博物館[神奈川県]
「天狗」のイメージを歴史的に振り返る企画展。国宝や重要文化財を含む約200点の文化財を5つの章に分けて展示した。絵巻や舞楽面、浮世絵、絵馬、活字本などに表わされた天狗のイメージの変遷を時系列に沿って見ていくと、半人半鳥の烏天狗から赤ら顔の鼻高天狗へという形象上の変化はもちろん、天狗の意味するものが推移していく様子もわかって、じつにおもしろい。それは、修行を邪魔する仏敵として現われ、魔界転生をはたして現世利益をもたらす信仰の対象となり、その後神事や芸能の現場に登場し、さらには崇高でありながら滑稽でもあるという二重性を帯びながら民衆に愛されるキャラクターとなった。居酒屋チェーン店の宣伝として活用されているように、かつて森の大空を闊歩していた天狗は、いまや完全に地上に引きずり降ろされてしまったわけだ。ただ、天狗だけでなく、河童や鬼など他の想像上の異人たちも同じような路を歩んでいることを思えば、本展が暗示していたのは、輸入した外来文化を内側で熟成させながら神々しい記号を民衆の底辺へと徐々に降ろしてゆく、日本文化の構造的な働きだといえる。いま美しく崇高であっても、いずれ世俗化され、笑いの対象とならざるをえない。豊かな想像力によって空想の世界を創り出す現代アートにしても、その構造からやすやすと抜け出すことはできないだろう。ただ、逆に民衆に愛されてやまない滑稽なアートが、やがて崇高な美しさに高まってゆくことがないともかぎらない。そこに、アートの例外的な価値がひそんでいるのかもしれない。
2010/10/26(火)(福住廉)