artscapeレビュー

悪人

2010年12月01日号

会期:2010/09/11

TOHOシネマズシャンテ[東京都]

小説を映画化するのは難しい。それは、実写で描かれたイメージが文字から連想したイメージとかけ離れていることが少なくないからであり、小説のボリュームを収めることのできない映画は必然的に小説の重要な構成要素をそぎ落とすことを余儀なくされるからだ。吉田修一原作、李相日監督作品による本作も、残念ながらそのパターンにはまってしまった。束芋が着想を得たという風俗嬢は映画には含まれていなかったし、だから主人公の男のいたいけな性格を十分に描ききれていなかった。さらに重大な欠落は、悪人と善人、正義と不正義をきれいに振り分けることができないことを描写するのが小説の肝だったにもかかわらず、この映画の重心はどちらかというと人間の美しいところに傾いており、醜いところをほとんど描くことができていなかった点だ。主演の妻夫木聡と深津絵里(の演技)が美しすぎるうえ、物語の終盤の舞台となる灯台のシーンもあまりにもロマンティックにすぎる。2人が灯台を目指す動機がきちんと説明されないまま物語が進んでしまうから、夕日に染まった広い海を前に純愛のあれこれを見せつけられても、こっちはなんだか困ってしまう。唯一気を吐いていたのが、岡田将生。軽薄短小、卑怯卑劣な男をこれでもかというほど演じてみせ、ついついうっとりしてしまいがちな物語の偏りにひとりで歯止めをかけた。岡田が演じた悪人が、強がりながらも一瞬見せる悔恨の情こそ、この映画の見どころである。

2010/11/14(日)(福住廉)

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