artscapeレビュー

マームとジプシー『ハロースクール、バイバイ』

2010年12月01日号

会期:2010/11/24~2010/11/28

シアターグリーン BASE THEATER[東京都]

3年前に旗揚げされたばかりの若い劇団。新作の舞台は高校のバレー部。転校生の入部、先輩と後輩の関係、マネージャーのバレーへの熱い思い、部長の悩みなど、部活をめぐる光景が多面的に微細に、ただし大きな事件なしに描かれる。熱気ある女子たち。それぞれキャラ立ちしている「けいおん!」みたいな同性集団。わいわいしている景色は、ありふれているが微笑ましい。けれども「けいおん!」とは違って共学の学園では、男子2人(新聞部とサッカー部)が登場し、彼女たちの外部を構成する。それに、終幕あたりで「ネバーランド(=高校生活)から外に出るんだね」といったセリフが口にされるように、仲間たちとの「あうんの呼吸」はエンドレスではないという諦念を、登場人物たちは意識してもいる。終わってしまう切なさと空しさ。それが本作のゴール?
対照的に、同じく青春の日々を語る若い劇団ロロは、虚無主義に直面してなお冷めない愛という神秘を何度も懲りもせず描き続ける。両者の最大の違いは、愛する者と愛される者の2者間で展開しうるのが愛であるのに対し、「あうんの呼吸」は集団固有のもので、バレーならば6人が揃わないと成立しないというところにあるのかもしれない。とはいえ、そこにあった幸福な時を追憶するだけではもったいない。何度も同じ光景をリプレイする語りの方法にうながされて、観客は「それはいまはない」というよりも「それはとても貴重な瞬間だった」という思いにかられただろう。平凡な部活の光景に、希有なコミュニケーションの瞬間があった。その経験を彼女たちが卒業後にどう活かすのか、この点がもっとも気になるのだけれど、ともかくもそれを収めようとカメラを抱える写真部のさえない男子がいることは重要で、彼こそこの物語の中心軸だったに違いない。

2010/11/27(土)(木村覚)

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