artscapeレビュー
三瀬夏之介 個展 だから僕はこの一瞬を永遠のものにしてみせる
2010年12月01日号
会期:2010/11/01~2010/11/30
第一生命ギャラリー[東京都]
アーティストにとっての成功とはなにか。勢いのあるコマーシャル・ギャラリーに所属することなのか、信用できるコレクターに作品が買われることなのか。もちろん、アーティストにとってそれらが重要な目標であることにちがいはない。けれども、それらの前提条件として展覧会で作品を発表することが不可欠である以上、個々の会場にふさわしい作品をたえず制作していくことができるかどうかに、成功の条件はかかっている。より具体的に言い換えれば、画廊より大きな美術館で発表する必要に迫られたとき、その空間に適した作品を用意できるのかが問われるわけだ。この壁にぶち当たり、それまでの勢いを失墜させてしまう新進気鋭のアーティストは、思いのほか多い。けれども、この壁をひらりと乗り越えてみせるのが、三瀬夏之介だ。本展で発表された屏風絵の大作は、この会場の広大な壁面に負けないほどのスケールを誇り、しかも床から離して展示しているため、まるで鑑賞者に覆いかぶさるほどの迫力を生み出している。絵の形式だけではない。その内容も、これまで三瀬がたびたび描き出してきた大魔神や、飛行機、UFOといったモチーフが総動員されたもので、画面の随所で生じている同時多発的な爆発によって、それらのモチーフはおろか、みずからの絵や鑑賞者もろとも、すべてを吹き飛ばすかのような外向性がみなぎっている。それは、ほぼ同時期に開催されたイムラアートギャラリー東京での個展「ぼくの神さま」で発表された作品が、絵という形式のなかで完結しており、いってみれば起承転結が明快な文章のような絵だったのとはじつに対照的だ。本展の屏風絵は、むしろ絵という形式にすら定着できない衝動の現われであり、自分でも容易には把握しがたい不安と苛立ちと祈りをすべて丸ごとぶちまけることができたところに、三瀬夏之介にとっての大きな達成がある。それは、たしかに私たちにも届いている。
2010/11/17(水)(福住廉)