artscapeレビュー
竹之内祐幸「Warp and Woof」
2023年12月15日号
会期:2023/10/06~2023/11/18
PGI[東京都]
PGIで開催されてきた竹之内祐幸の個展をこれまで何度か見て、いい作家だとは思うのだが、いまいちその輪郭、方向性を掴みきれないでいた。だが今回の「Warp and Woof」展に彼が寄せたテキストを読んで、「なるほど」と腑に落ちるものがあった。
竹之内は取材で「ヒッピーの集落」を訪れ、自分の世界とはまったく異なる習慣や振る舞いを目にして大きなショックを受けた。そのときに、一緒に行った編集者が「普段の自分とかけ離れた“際”の世界を知ると、自分の心の地図が広がった気がしませんか」と話してくれたのだという。それを聞いて「自分の身の回りの景色だけでなく、それを構成しているもっと大きな世界にも目を向けよう」と思い、望遠レンズで遠い風景を撮影し始めた。
そういう目で見ると、竹之内の写真ではいつでも「自分の心の地図」を広げようという思いがかたちをとっているように感じる。ある被写体にカメラを向けるとき、その対象物を超えた「もっと大きな世界」を常に意識しているというべきだろうか。そのため、展覧会や写真集には、何をどんな目的で撮影したのかよくわからない、意味づけをはぐらかすような写真が並ぶことになる。今回の展示では、その狙いは被写体の選択だけでなく、会場構成にも及んでいた。大中小のフレームが用いられているだけでなく、大きなフレームに窓を切り、そこに小さな写真を25-27枚はめ込んで縦横に繋げていく作品もある。さらに3面マルチの映像作品もあり、「心の地図」をさまざまなかたちで描き出していこうとする彼の意図がよく伝わってきた。
昆虫や鳥、水の表面、岩山、樹木、後ろ姿の人物など、竹内が拾い集めてきたものたちは穏やかに自足しているように見えて、何か別なものにメタモルフォーゼしかねないような、やや不穏な気配も感じさせる。「心の地図」を声高に押しつけるのではなく、慎み深く、そっと差し出すような彼の姿が、写真の行間から浮かびあがってくるような展示だった。なお展覧会に合わせて、FUJITAから同名の写真集(デザイン:藤田裕美)が刊行されている。
竹之内祐幸「Warp and Woof」:https://www.pgi.ac/exhibitions/8962
2023/11/08(水)(飯沢耕太郎)