2022年12月01日号
次回12月15日更新予定

artscapeレビュー

注目作家紹介プログラム チャンネル12「飯川雄大 デコレータークラブ メイクスペース、ユーズスペース」

2022年04月15日号

会期:2022/02/26~2022/03/27

兵庫県立美術館[兵庫県]

「蛍光ピンクの猫のキャラクターをかたどった立体作品」といういかにもSNS映えするキャッチーな外観だが、巨大すぎて全貌を画面に収めることができない《デコレータークラブ─ピンクの猫の小林さん》。一見何もない展示空間だが、「壁」を観客が(時に協働して)押すことで動き出し、ホワイトキューブという制度的空間を文字通り揺り動かす《デコレータークラブ─配置・調整・周遊》。展示室の床に置き忘れられたかのように見える、けれどもどこか場に不似合いなカラフルなスポーツバッグを手に取ろうとすると、とんでもなく重くて持ち上がらない《デコレータークラブ─ベリーヘビーバッグ》。飯川雄大が2007年から展開する「デコレータークラブ」シリーズはこれまで、観客の能動的な介入を誘いながら、認識と体験のズレをユーモラスに仕掛ける作品を発表してきた。そこにはつねに視覚の全能性に対する疑いがある。「デコレータークラブ」とは、海草や貝殻など周囲のモノを殻にまとって環境に擬態する習性を持つ蟹を指す。「展示壁や忘れ物のフリをする」ことで美術鑑賞の場に擬態する飯川作品の核心をつく言葉であるとともに、「デコレータークラブ」を発見した観客自身が、それまで「透明な目」として展示空間に溶け込み「擬態」していたことを暴く作用の名でもある。

本展ではまず、展示壁に大きく記された「新しい観客」という文字が出迎える。カラフルなロープで構成された文字には滑車が取り付けられ、滑車から伸びたロープが会場内に張り巡らされている。そして、4台の回転ハンドルを観客が回すと、滑車が回ってロープがゆっくりと引っ張られ、文字を構成するロープの色が次第に入れ替わっていく。



注目作家紹介プログラム チャンネル12「飯川雄大 デコレータークラブ メイクスペース、ユーズスペース」
兵庫県立美術館の展示風景(2022)[撮影:阪中隆文]



注目作家紹介プログラム チャンネル12「飯川雄大 デコレータークラブ メイクスペース、ユーズスペース」
兵庫県立美術館の展示風景(2022) [撮影:阪中隆文]



注目作家紹介プログラム チャンネル12「飯川雄大 デコレータークラブ メイクスペース、ユーズスペース」
兵庫県立美術館の展示風景(2022)[撮影:阪中隆文]


さらにロープは展示室の外へと続く。ロープを辿って廊下を抜け、美術館の外へ。すると外壁一面に、「MAKE SPACE USE SPACE」という巨大なロープの文字が掲げられている。筆者の鑑賞時は、展示室内の「新しい観客」という文字はブルー、白、オレンジのロープで主に構成されていたが、外壁のこちらは蛍光ピンク、白、黄色と鮮やかだ。展示室内で観客がハンドルを回すことで、ロープがつながった外壁の文字も少しずつ色が移動し、ある時点で完全に色が入れ替わるという。



注目作家紹介プログラム チャンネル12「飯川雄大 デコレータークラブ メイクスペース、ユーズスペース」
兵庫県立美術館の展示風景(2022) [撮影:阪中隆文]


ひとつの視点では把握できない全貌を、ある作用が別の場所にもたらす出来事を、想像すること。加えてここには、社会構造に対するポジティブなメッセージを読み解くことも可能だ。個人が能動的に働きかけることで、少しずつ色が入れ替わって変化していく。社会構造は変えることができる。ただし、1人だけの力では色を完全に入れ替えることはほぼ不可能である。複数の人の力が合わさることで構造全体が変化していくのだ。

また、キャスターに乗った《ベリーヘビーバッグ》を観客が展示室の外へ持ち出し、神戸市内の美術館から、飯川が参加する「感覚の領域 今、『経験する』ということ」展が開催中の大阪の国立国際美術館まで運ぶという「作品」も、2つの点をさまざまな想像でつなぎ、示唆的だ。重いバッグに疲れ、観客が故意にもしくはうっかりどこかに放置してしまったら? 事故などで破損したら? 盗難にあったら? 「アート作品」として売ろうとする人が出てきたら? こうした想像は、観客もまた、(解釈ではなく物理的運搬というかたちで)「作品」の成立に責任を負う存在であることをリテラルに突きつける。あるいは、キャスターに乗ったバッグを運ぶ観客を、「旅行者」に擬態させる。それは、「移動」が制限された状態に対する、想像力を介した抵抗の身振りでもある。さらに想像をたくましくすれば、「避難民」への擬態は、今この瞬間にも「ここではない別の場所」で起こっている出来事を「ここ」へと強制的に転移させる。物理的なアクションと想像の作用の両方により、「観客を動かす」秀逸な展示だった。



注目作家紹介プログラム チャンネル12「飯川雄大 デコレータークラブ メイクスペース、ユーズスペース」
兵庫県立美術館の展示風景(2022) [撮影:飯川雄大]

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