artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
カタログ&ブックス | 2022年8月1日号[近刊編]
展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
※hontoサイトで販売中の書籍は、紹介文末尾の[hontoウェブサイト]からhontoへリンクされます
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Museum of Mom’s Art 探すのをやめたときに見つかるもの
どこにでもあって、だれからもリスペクトされることなく、作者本人もアートとはまったく思わず、売ったり買ったりもできず、しかしもらえることはよくあり、しかももらってもあまりうれしくない。ハイブロウでも、ローブロウですらない、ノーブロウの明るい衝撃。コンセプトでも反抗でもない「手を動かす純粋なよろこび」が君を微笑ませ、涙ぐませる。
そんな「おかんアート」をオールカラーで350点以上収録。軍手人形、リボン人形、折り紙手芸からチラシかごまで、可愛くて、懐かしくも新しい⁉作品に加え、カリスマおかんアーティストの紹介や対談を収めた至極のおかんアート作品集。
関連レビュー
Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村|村田真:artscapeレビュー(2022年03月01日号)
中部美術縁起
アートを生みだし、育んだ創造性の源はなにか。中部美術シーンをめぐるさまざまな人、出来事、そして事件から。
へそ ── 社会彫刻家基金による「社会」を彫刻する人のガイドブック
本書には、「社会彫刻家アワード2021」の受賞者である、オルタナティブスペースコア、ボーダレスアートスペース HAP、マユンキキの3組への取材や、調査選考委員である、飯田 志保子、卯城 竜太、ヴィヴィアン佐藤の3名による選考プロセスなどを振り返った鼎談、関連するテーマへの論考などを掲載します。「社会彫刻」を定義、あるいは、解説する本ではなく、社会彫刻家の活動やそれによる社会の変化を通して、これからの社会や社会彫刻について考えていくきっかけとなる本を目指しています。
社会彫刻家基金ウェブサイト:https://socialsculptor.tokyo/
関連記事
ボトムアップで支える文化のインフラ──MotionGallery 大高健志氏に聞く|大高健志/内田伸一:artscapeレビュー(2020年08月01日号)
イームズを読み解く 図面からわかった、その発想とデザイン
数々の椅子などの名品を生み出した世界的デザイナーである、チャールズ&レイ・イームズ夫妻を、既刊のイームズ関連書にはなかった切り口で紹介する本。
弘前れんが倉庫美術館 -記憶を継承する建築-
弘前れんが倉庫美術館は、パリを拠点に国際的に活躍する建築家の田根剛が、日本国内で初めて設計を手掛けた美術館です。本書では、田根が取り組む「記憶を継承する建築」はどのように行われたのか、その全貌を明らかにします。
ポストコロナと現代アート 16組のアーティストが提起するビジョン
コロナ禍の2021年11月に開催された展覧会「『新しい成長』の提起 ポストコロナ社会を創造するアーツプロジェクト」のコンセプトブック。 作品図版のほか、椹木野衣、藪前知子、鷲田めるろ、毛利嘉孝の論考を掲載。
活動芸術論
Chim↑Pom from Smappa!Groupの元リーダー、渾身の書き下ろし40万字(単行本3冊分)!アートが育んできたラディカルさ、全ての行為・行動・活動が「アクション」であるという自覚で、私たちの日常はガラリと変わる。いまやアクション(活動芸術)あるのみ!
「特別展アリス─へんてこりん、へんてこりんな世界─」図録
2022年7月16日より森アーツセンターギャラリーにて開催されている「アリス-へんてこりん、へんてこりんな世界-」の公式書籍。
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2022/07/29(金)(artscape編集部)
土田ヒロミ『Aging』
発行所:ふげん社
発行日:2022/06/23
土田ヒロミの「Aging」シリーズは、まさに破天荒としかいいようのない作品である。土田は1986年7月に、すでに老化の兆しを感じ始めていた自分自身の顔を「毎朝の洗顔のように」撮影しようというアイデアを思いついた。区切りがいいということでいえば、翌年の1月1日からだが、そこまで待つと計画が流れてしまいそうに感じて、同年の7月18日から撮影を開始する。以来その営みは36年にわたって継続されることになる。今回、ふげん社から刊行された写真集には、1986-2021年撮影の全カットがおさめられている。何らかの理由で撮影ができなかったり、データが消失してしまったりした日もあるので、総カット数は約1万3千カットということになる。
土田はこれまで、この「Aging」を個展の形で2回発表している。撮影10年目の1997年に銀座ニコンサロンで、そして撮影33年目の2019年にふげん社で。この2回目の個展に展示した写真群に、その後の3年分を加えたものが、今回の写真集制作のベースになった。そこでは、これだけの量の写真を写真集という器の中にどうおさめるかが最も重要な課題になったのは間違いない。写真集のデザインを担当した菊地敦己も、だいぶ苦労したのではないだろうか。結果的に、写真を顔がぎりぎりに識別できる最小限の大きさまで縮小し(11.5×14.5㎜)、横18コマを21段重ねた27.2×28.7㎝の方形のフレームに、1年分の写真がおさまるようにレイアウトした。写真図版の対向ページには、撮影年月日を記したコマが並び、それぞれの写真と対応するようになっている。
現時点ではベストといえるレイアウト、デザインだと思うが、問題は「Aging」シリーズがこれで完結したわけではないということだ。土田は80代を迎えてもまだまだ元気であり、本シリーズもこの先まだ続いていくはずだ。あながち冗談ではなく「死ぬまで続く」はずの本作を、これから先どんな形で発表していくのか、おそらく土田のことだから何か考えているはずだが、どうなっていくのか興味は尽きない。
2022/07/16(土)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス | 2022年7月15日号[近刊編]
展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
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トーキョーアーツアンドスペース アニュアル2021
2021年度二国間交流事業プログラム<ヘルシンキ>派遣クリエーターの上村洋一、「ACT Vol. 4」の出展作家ユアサエボシへのインタビューのほか、TOKASの活動20年を記念し、これまでの事業の歩みを年表形式で振り返る特集やかつてプログラムに参加した田村友一郎、三田村光土里へのインタビューも収録しています。
クリスチャンにささやく 現代アート論集 (水声文庫)
ささやくように、語りかけるように……「2人称のクリティーク」というスタイルによって〈美〉と〈倫理〉を激しく問い、現代アートを縦横無尽に論じた、破格の美術批評。
ポストモダニティの条件 (ちくま学芸文庫)
モダンとポストモダンを分かつものは何か。近代世界の諸事象を探査し、その核心を「時間と空間の圧縮」に見いだしたハーヴェイの主著。改訳決定版。
美術作品の修復保存入門 古美術から現代アートまで
美術作品や文化財の「修復保存」について、絵画作品、紙作品、立体作品、そしてタイムベースド・メディア(≒映像)作品に分け、技法や材料並びに保存・保管といった基礎を、豊富な事例や興味深いエピソードと共にわかりやすく紹介。楽しみながら学べるコラムも多数収録した、専門家に限らず、誰もが手元に置いて参考にできる入門書。
アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真
海外のシュルレアリスムや抽象美術の影響を受け、1930年代から1940年代に全国各地に花開いた写真の潮流──前衛写真。写真家、画家だけではなく、詩人やデザイナーをも巻き込み、新しい表現を追求する大きな磁場となりつつも、やがて時代の波にのみ込まれていった前衛写真の相貌と本質に迫る!
2022年5月20日(金)より東京都写真美術館で開催される展覧会「アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真」公式カタログ。
関連レビュー
アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2022年06月15日号)
池田修の夢十夜
2022年3月16日に急逝したBankART1929代表・池田修が生前から企画していた、池田修のこれまでの文章をまとめた本。当初の予定通り65歳の誕生日にあわせて刊行。
関連レビュー
池田修を偲ぶ6日間「都市に棲む―池田修の夢と仕事」|村田真:artscapeレビュー(2022年07月01日号)
房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2020+
2021年11月19日〜12月26日に開催された「いちはらアート×ミックス2020+」の全作品・イベントを収録した公式記録集。
TOP コレクション メメント・モリと写真
2022年6月17日~9月25日まで東京都写真美術館にて開催されている展覧会「TOP コレクション メメント・モリと写真」のカタログ。
よむかたち デジタルとフィジカルをつなぐメディアデザインの実践
2022年06月21日
活動初期よりデジタルとフィジカルの表現を往復し、デジタルメディアとデザインをつなぐ制作を継続してきた著者の仕事を振り返る初の作品集。
社会化するアート/アート化する社会 社会と文化芸術の共進化 (文化とまちづくり叢書)
「芸術」「美術」から、よりカジュアルに「アート」という言葉を用い始めて久しい。アートと社会は、それぞれが他方の一部となり「アートの社会化」「社会のアート化」が進む。本書はこうした状況を「社会とアートの共進化的動態」として捉えた。そこには地域、参加、多様性などの関連、さらに地域経済、市民社会論にまでかかわる「問題群」が浮上する。
AGI 2 / ENO
「AGI 2 / ENO」1976年から1979年にかけて、日本でブライアン・イーノについて最も多くのことばを費やしてきたのは間違いなく阿木譲だ。本書では当時の『ロックマガジン』誌に掲載された阿木によるイーノに関する文章、レコード・レビュー、ライナー・ノーツなどを抜き出し、アーカイブすることを通して、阿木譲とイーノ、さらに音楽シーンの変遷にスポットを当ててみた。
ときめきのミュージアムグッズ
美術館や博物館での、ときめきの思い出を形にしたミュージアムグッズ。 本書では、ひと目見て欲しくなるような特別な輝きを持つ「きらめきのミュージアムグッズ」、ギミックの素晴らしさに感動したり、使ってその良さがさらにわかる「躍動するミュージアムグッズ」、アイテムが生まれたストーリーなど背景を知るとより愛着がわく「物語を紡ぐミュージアムグッズ」の3部構成で展開します。
YCAM BOOK 2022-2023
山口情報芸術センター[YCAM]の2022〜2023年の活動リポート。
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展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
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2022/07/14(木)(artscape編集部)
カタログ&ブックス | 2022年7月1日号[テーマ:アーティスト/作曲家・池田亮司の先鋭性を再発見する5冊]
注目の展覧会を訪れる前後にぜひ読みたい、鑑賞体験をより掘り下げ、新たな角度からの示唆を与えてくれる関連書籍やカタログを、artscape編集部が紹介します。
2009年以来の大規模個展が弘前れんが倉庫美術館で開催(2022年4-8月)されるなど、アーティスト/作曲家として近年も活躍を続けている池田亮司(1966-)。研ぎ澄まされた光と音の作品は、観る者をたびたび圧倒してくれます。ダムタイプとして活動した時代から現在に至るまで、池田の作家性を再び見つめ直す5冊を紹介します。
今月のテーマ:
アーティスト/作曲家・池田亮司の先鋭性を再発見する5冊
1冊目: +/−〈the infinite between 0 and 1〉
Point
東京都現代美術館で開催された、2009年の初の大規模個展の図録として編集された本書。人間の知覚を「データ」として捉え直し、鑑賞者の眼と耳に根源的に働きかける池田のインスタレーション作品を通した探求は、現在に至るまで一貫して続いていることが再確認できます。
2冊目:ダムタイプ 1984 2019
Point
京都市立芸術大学の学生を中心に、1984年ごろから活動したアーティスト・コレクティヴ「ダムタイプ」。池田もその一員として、ビジュアル/テクニカルの両側面からグループのアイデンティティを形成してきたことは、池田の活動初期を語る上でも重要な要素です。ダムタイプの活動を総覧できる、保存版ともいえる一冊。
3冊目:美学のプラクティス
Point
「美学とは何か?」という大きな問いへの考察を重ねる、気鋭の哲学者/美学者・星野太による論集。「感性的対象としての数」の項で、宮島達男作品などとともに池田亮司に関する言及も。これらを具体例に語られる、美学においての「美と崇高」の概念は、ほかの作家の作品を観る際にもきっと生かされるはず。
4冊目:フラッター・エコー 音の中に生きる
Point
英国における現代音楽の巨匠であり、批評家でもあるデイヴィッド・トゥープ(1949-)によって2017年に刊行された自伝。アンビエントやエレクトロニカなど、多岐にわたる音楽ジャンルの年代記としても読め、日本人アーティストとの共作もたびたび行なってきた著者独自の視点で池田亮司の音楽性にも触れています。
5冊目:パンデミック日記
Point
文芸誌『新潮』に掲載された、小説家や劇作家、ミュージシャンなど各界の文化人たち総勢52名による2020年の1年間のリレー日記。そのなかで池田亮司も身の回りのことを綴っています。個々人での世相の見方が鮮明に体感できる一冊。いまや日常となったパンデミックが鮮烈に生活を左右していた頃がもはや懐かしい。
池田亮司展
会期:2022年4月16日(土)~8月28日(日)
会場:弘前れんが倉庫美術館(青森県弘前市吉野町2-1)
公式サイト:https://www.hirosaki-moca.jp/exhibitions/ryoji-ikeda/
池田亮司展 展覧会ブックレット
「池田亮司展」の解説や展示風景写真を収録した展覧会ガイドブック(日英バイリンガル)。インディペンデント・キュレーター吉竹美香氏による論考のほか、キュレーター/ライターのバーバラ・ロンドン氏による作家へのインタビューを掲載。
◎展示会場隣接のショップ、オンラインストアで予約受付中。
2022/07/01(金)(artscape編集部)
村石保『昭和、記憶の端っこで──本橋成一の写真を読む』
発行所:かもがわ出版
発行日:2022/06/30
本書を一読してちょっと驚いたことがある。掲載されている50点の写真、そのほとんどに見覚えがなかったのだ。本橋成一はいうまでもなく日本を代表するドキュメンタリー写真家の一人で、大きな展覧会を何度も開催している。『炭鉱〈ヤマ〉』(現代書館、1968)以来の彼の写真集にも、ほぼ目を通しているはずだ。にもかかわらず、編集者の村井保が一枚一枚の写真にエッセイを寄せたこの写真文集の掲載作は、初めて見るもののように感じられた。逆にいえば、いわゆる代表作として喧伝されている写真に頼って、本橋のような厚みと多面性を兼ね備えた写真家について論じることが、いかに危ういものであるかを思い知らされた。本橋の写真の世界は、細部に踏み込めば踏み込むほど、その輝きが増すものなのではないだろうか。
本書は、「信州産! 産直泥つきマガジン」として刊行されている『たぁくらたぁ』(オフィスエム)に、2008年から連載されたコラムの写真とテキストを中心にまとめたものだが、他の媒体の掲載作や書き下ろしも含んでいる。村井の文章は、本橋の写真に寄り添いながらも、独自の角度からその世界を読み解いており、そこに写っている光景をむしろ現代の問題意識に引き付けて浮かび上がらせるものだ。日の丸、チェルノブイリ、真木共働学舎、サーカスなど、共通するテーマの写真を並置したパートもあり、総体として、いまや背景に退きつつある「昭和」の時期に培われた世界観、現実認識を、より若い世代にあまり押し付けがましくなく伝えようとしているのがわかる。巻末の著者略歴を見て気づいたのだが、村石保は2022年4月27日に亡くなっていた。この本が遺作というわけで、そう考えると、本橋の写真に託した彼のラスト・メッセージが、より身に染みて伝わってきた。
2022/06/20(月)(飯沢耕太郎)