artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
カタログ&ブックス | 2021年9月15日号[近刊編]
展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
※hontoサイトで販売中の書籍は、紹介文末尾の[hontoウェブサイト]からhontoへリンクされます
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目の見えない白鳥さんとアートを見に行く
見えない人と見るからこそ、見えてくる!全盲の白鳥建二さんとアート作品を鑑賞することにより、浮かびあがってくる社会や人間の真実、アートの力。「白鳥さんと作品を見るとほんとに楽しいよ!」友人マイティの一言で、「全盲の美術鑑賞者」とアートを巡るというユニークな旅が始まった。白鳥さんや友人たちと絵画や仏像、現代美術を前に会話をしていると、新しい世界の扉がどんどん開き、それまで見えていなかったことが見えてきた。
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「見えないこと」から「見ること」を再考する──視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ|林建太(視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ)/中川美枝子(視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ)/白坂由里(美術ライター):フォーカス(2021年07月15日号)
ミュージアムグッズのチカラ
2ミュージアムグッズの「ステキ」さを、①かわいいを楽しみたい、②感動を持ち帰りたい、③マニアックを堪能したい、④もっと深く学びたい、の4つのテーマで分類して紹介した、ミュージアムグッズ愛好家・大澤夏美による、ミュージアムグッズ愛溢れる一冊。読み進めるごとに博物館の魅力に夢中になります!
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ミュージアムショップ/ミュージアムグッズのいま|大澤夏美/artscape編集部:フォーカス(2019年01月15日号)
human nature Dai Fujiwara 人の中にしかない自然
自然界に存在するものを創作の始点とし、先端技術を駆使した創作活動で世界的に高い評価を受ける藤原大。デザイナーとして知られる藤原の新たな側面に光をあて、時代の先を見据え制作してきた未発表を含むアート作品を展観する。
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第2回 美術館での心の動きが、個々の日常に還っていくまで──藤川悠(茅ヶ崎市美術館)×畑井恵(千葉市美術館)|藤川悠(茅ヶ崎市美術館)/畑井恵(千葉市美術館)/杉原環樹(ライター):もしもし、キュレーター?(2021年08月01日号)
ユニバーサル・ミュージアム さわる!“触”の大博覧会
さわって楽しむアート作品が大集合! さまざまな素材と手法を用いて、“触”の可能性を探る、「ユニバーサル・ミュージアム」大博覧会(国立民族学博物館、2021年9月2日~11月30日)の公式図録。
アルフレッド・ウォリス 海を描きつづけた船乗り画家
日本では2007年に「だれも知らなかったアルフレッド・ウォリス」展(東京都庭園美術館)が開催され、ウォリスの存在が知られるようになった。本書は同展を企画した美術史家の著者が書き下ろした、日本で初めての評伝である。学芸員時代からイギリス美術を研究し、アーティスト・コロニーとして名高いセント・アイヴスを幾度となく訪れ、ウォリスとの対話を続けた著者による渾身の作家論。
山城知佳子リフレーミング
現在、もっとも注目を集める映像アーティストの一人、山城知佳子。故郷沖縄を舞台に、見る者の身体感覚を揺さぶり、詩的なイメージと同時代への鋭い批評性をあわせもつ映像は、国内外で高く評価されている。本展覧会出品作を網羅するにとどまらず、過去作品の図版も多数収録した山城知佳子の作品世界を通覧する個展公式図録!
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山城知佳子作品展|高嶋慈:artscapeレビュー(2016年12月15日号)
未来に向かって開かれた表現──山城知佳子《土の人》をめぐって|荒木夏実(森美術館キュレーター):フォーカス(2016年09月15日号)
山城知佳子『あなたをくぐり抜けて』|高嶋慈:artscapeレビュー(2018年11月15日号)
鷹野隆大 毎日写真1999-2021
美術館における初の大規模な個展の図録である本書は、鷹野の芸術活動の根幹を成すその「毎日写真」を主軸としながら、ジェンダー・セクシャリティ系の出世作や、日本特有の無秩序な街並みの写真「カスババ」、定点観測的な「東京タワー」、東日本大震災が契機となり近年注力する影の作品など、約130点をほぼ時系列で収録しています。
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鷹野隆大 毎日写真1999-2021|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2021年08月01日号)
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※「honto」は書店と本の通販ストア、電子書籍ストアがひとつになって生まれたまったく新しい本のサービスです
https://honto.jp/
2021/09/14(火)(artscape編集部)
カタログ&ブックス | 2021年9月1日号[テーマ:コミュニケーション]
テーマに沿って、アートやデザインにまつわる書籍の購買冊数ランキングをartscape編集部が紹介します。今回のテーマは、和歌山県立近代美術館で開催中のグループ展「コミュニケーションの部屋」にちなんで「コミュニケーション」。「芸術・アート」ジャンルのなかでこのキーワードに関連する、書籍の購買冊数ランキングトップ10をお楽しみください。
「コミュニケーション」関連書籍 購買冊数トップ10
1位:異文化コミュニケーション学(岩波新書 新赤版)
グローバル化が加速し、価値観も多様化している今、異なる「文化」をもつ人とともに暮らすことは日常になっている。異文化コミュニケーションには、民族や言語の違いだけでなく専門性が異なる人同士の対話も含まれるなど、幅が広い。先達の研究を踏まえつつ、数多くの海外ドラマの具体的なセリフから、これらを改めて問い直す。
2位:河野英喜の女の子ポートレート撮影術 撮り方&コミュニケーションの「基本」だけ覚えて最高にかわいい表情を盗もう!(玄光社MOOK)
顔の「おいしい角度」を見つける、その場にある光と影でモデルを描く……。長年、人を撮り続けてきたカメラマン・河野英喜が、女の子を最高にかわいく撮るための“鉄板ノウハウ”と、撮影の楽しみ方を伝授する。
3位:デザインとヴィジュアル・コミュニケーション 新装版
1967年、ムナーリがハーヴァード大学に招かれて行った「ヴィジュアル・スタディーズ」の授業50回の講義録。 さまざまな国からやってきた学生たちを前にして、ムナーリは考えた。視覚伝達には、文化を超えて了解できる「原理」があることを、授業を通して理解してほしい、と。学生たちの探究心に応じ、多様な角度からのスタディを考案してゆく、デザインの名人ムナーリの画期的な教授法がこの一冊に。永遠にユニークで役に立つヴィジュアル・コミュニケーションの教科書、待望の復刊。「芸術は技術ではない。技術は芸術ではない」
4位:談志が教えてくれたボケの一念 突っ込み社会を生き抜くための落語コミュニケーション術
勝ち方より負け方。進み方より逃げ方。窮屈な世のなかに対して徹底的に「ボケ」の姿勢を展開すればあらたな視座が広がり、ものの見方が楽しくなる。立川談志の弟子が、師匠の教えをもとに語るコミュニケーション論。
5位:コミュニケーションのデザイン史 人類の根源から未来を学ぶ
デザインはコミュニケーションから生まれた──。地図、本、学校、美術館、手紙など、多様なメディアから学ぶ、コミュニケーション・デザインの教科書。江渡浩一郎との対談も収録。
6位:グラフィックデザイナーのための色の基本 印刷物作成へのカラーコミュニケーション
いかに美しい印刷物を作るかということに、デザイナーを含む制作サイドから製版・印刷に携わる技術者まで日々苦労している。しかしながら、制作する過程での“色”に関するトラブルは多い。その最も大きな原因は関係者間のコミュニケーション不良であると考えている。コミュニケーション不良には、コミュニケーションする「機会をもてない」という問題と、もててはいるが「認識に違いがある」という問題がある。機会をもてないという問題に関しては、担当者・部署・会社の間でそれぞれ難しい面もあるとは思うが、相互にコミュニケーションを図る努力が必要である。認識に違いがあるという問題では、何故認識に違いが生ずるかということを考えなければならない。この原因は、関係者の色についての知識が不十分であるか、若しくは事前の打合せ・合意がないからだと思う。
色を扱うには技術的な理論がベースにあって、そこに色を見る感性が加わり、非常に奥深いものなので、基本的な知識を積み重ねないとしっかりとは理解できないと感じる。また、技術はどんどん進歩していくものなので、常に最新の情報を得るようにしておかなければならない。(中略)
グラフィックデザイナーのことを念頭においているが、色に関することはすべての方に共通であるので、他の職種の方にも十分お役に立てるのではないかと思っている。本書が、色を理解しカラーコミュニケーションを円滑に行ううえで、色に携わる多くの方々のお役に立てれば幸いである。
7位:コミュニケーション力を引き出す 演劇ワークショップのすすめ(PHP新書)
ほんとうのコミュニケーション力とは、その場の空気を読む力などではなく、お互いの差異を摺(す)り合わせる能力のことだ。演劇は2500年間、人間がもともと持っているそのようなコミュニケーション力を引き出してきた。祭りの際に演劇が上演されたのは、演劇に地域のコミュニティーを形成する力があったためである。この「演劇の力」を現代に合う形で活用する「演劇ワークショップ」の理論と理念を、現代演劇の旗手平田オリザが平易に語る。そして全国的にも珍しい「プロ劇団」の代表である蓮行が、そのプロセスを解説。ある企業における演劇ワークショップの模様をドラマチックに解説する。
さらに、世界中から注目を集めているフィンランドの教育メソッドにも演劇が取り入れられているといった興味深い事例や、「あくび卵発声」などの具体的なノウハウも満載。
ビジネスパーソン、教員、そしてこれからの日本を動かす政治家、官僚も必読の一冊。
8位:演劇コミュニケーション学
演劇はコミュニケーション能力を育成するための最良の手段の一つである。ワークショップ的活動を取り入れた授業や、教育における演劇の活用について様々な事例とともに具体的に解説。半戯曲セミドキュメンタリー小説等も収録。
9位:コミュニケーションを生み出すアートの力 日本で生まれた「トリックアート」が人の心をつかむ秘密
平面の絵なのに立体的に見える「トリックアート」はどのように生まれ、どのように進化してきたのか。生い立ちから現在の発展までの活動や苦闘・工夫の数々、デジタル化が進むこれからの時代の目指す世界などを綴る。
9位:芸術という言語 芸術とコミュニケーションとの関係についての序説
芸術は果たして言語をモデルとして体系化できるのか? 旧ソ連のモスクワ・タルトゥ学派の業績を根底に、イタリア学派やヨーロッパ・北米の伝統も取り入れた、ボローニャ大学の気鋭による芸術記号論。
9位:舞踊とバレエ 虚像による非言語コミュニケーション
人々が生活の中で身体を介して何事かを表し、更にそれを受取る非言語コミュニケイションが、有言語の荒波に揉まれながら立ち上がる姿について、ダァンス・クラスィクとバレエの世界を通して考えを述べる。
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artscape編集部のランキング解説
ひとつの場所に集まって他者と時間を共有することがしづらくなった昨今、私たちにとっての「コミュニケーション」のかたちも大きく変容してきているように感じます。和歌山県立近代美術館で10月10日(日)まで開催中の展覧会「コミュニケーションの部屋」のステートメントでは「コミュニケーション」のことを「なんらかの情報を伝え、『共有』すること」とし、美術館や展覧会という場で人と作品との間に起こっているコミュニケーションについて、時代も地域も異なる作品たちを通して、改めて問い直しています。
「コミュニケーション」というキーワードで抽出した「芸術・アート」ジャンルの本のランキングでも、多種多様な「コミュニケーション」の姿が見られました。まず注目したいのが、3位の『デザインとヴィジュアル・コミュニケーション 新装版』。イタリアの美術家・デザイナーであり晩年は教育者であったブルーノ・ムナーリ(1907-98)が、1967年にハーバード大学のカーペンター視覚芸術センターに教師として招かれた際のヴィジュアル(視覚)・コミュニケーションにまつわる講義録です。さまざまな国籍や文脈を持った学生たちを前に、ムナーリはヴィジュアル・コミュニケーションを成立させるのに不可欠な要素として「客観性」を挙げています。「つまりそのイメージは、だれが見ても同じように読み取られる必要があるのです。そうでないとヴィジュアル・コミュニケーションはなされません。それどころか、コミュニケーションすらありません」(p.14)。「自分だけのイメージ」を所有する芸術家のアプローチとしばしば比較されるかたちでデザイナーの視座の持ち方が語られる本書は、現在でもデザイン教育の現場で大きな影響力を持つ一冊。本の後半では、建築や自然物、工業製品など膨大な数の事例を図版とともに挙げながら、ヴィジュアル・コミュニケーションを成り立たせるための要素を検分するパートが続き、1960年代後半当時のムナーリのデザイン教育への熱量、そしてコンピュータ技術などをはじめとする最新のテクノロジーへの関心も垣間見られます。
同じくデザインにまつわる本で気になるのは『コミュニケーションのデザイン史 人類の根源から未来を学ぶ』(5位)。世界認識のツールである地図の話から始まり、学校教育や美術館/博物館、あるいは本や手紙、通信、インターネットに至るまで、人類の情報伝達手段がどのように設計され広がっていったかの歴史を紐解く壮大なスケールを持った一冊です。著者は、デザインという行為には必ずコミュニケーションが付随することにも言及しつつ、「現代では『誰』ということが重視されてきています。誰から誰に向けて、どんな方法で、どんな状況や文脈でメッセージを届けるのか、そしてそれはどのように受け取られるのか。その全体を考えるのがコミュニケーション・デザインであるといえるでしょう」(p.11)と、マスコミュニケーションの衰退とともに近年「コミュニケーション・デザイン」という語が使われるようになった背景について述べています。
そのほか、ワークショップを通して「演じる」ことから日常におけるコミュニケーションの力を引き出す方法論を綴った平田オリザ・蓮行の共著も2冊同時にランクイン(7、8位)。ダンスが用いる非言語的コミュニケーション(10位)や、印刷物におけるベストな色味を引き出すための関係者間でのコミュニケーション(6位)など、芸術・デザイン分野のなかにある「コミュニケーション」の姿は大小さまざま。日々の些細なやりとりにも、これらの本が新たな工夫やイマジネーションをもたらしてくれるかもしれません。
2021/09/01(水)(artscape編集部)
福島あつし『ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ』
発行所:青幻舎
発行日:2021/08/31
コロナ下において、弁当やテイクアウトの配達員の姿は見慣れた日常の一部となった。だが、そのなかに混じって、「高齢者専門の弁当配達員」が以前から存在することは、ほとんど意識されることがない。
福島あつしは、2004年から10年間、神奈川県川崎市で、高齢者専門の弁当屋の配達員として働き、配達先の独り暮らしの老人たちと徐々に関係性を築きながら、老人たちとその居住空間を撮影し続けた。2019年には、KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭の同時開催イベント「KG+SELECT 2019」にて、個展「弁当 is Ready.」がグランプリに選ばれ、翌年には同写真祭の公式プログラムに参加。そして、『ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ』と改題し、福島の文章も併録した写真集が今夏、出版された。
福島の写真作品は、まず、「超高齢化社会」「独居老人」「ケア」「孤独死」といった社会問題のルポとして捉えられる。写真集は「開いたドアの奥に見える、散らかった台所」を写した一枚から始まり、福島の配達員としての視線を追体験するように、老人たちの居住空間に侵入していく。食器や空の容器が積みあがったシンク。ゴミの詰まったビニール袋でいっぱいの押し入れや床。敷きっぱなしの布団。床に溜まった新聞紙や空の弁当容器。やがて、ベッドに横たわり、丸めた背中で独り弁当を食べる老人たちが登場するが、開いた扉の隙間越しや、斜め後ろからのアングル、顔の遮蔽や断片化された身体は窃視的な視線を否応なく感じさせる。そこには、福島自身が葛藤を記すように、被写体にレンズを向ける/それを見ることの罪悪感、写真と眼差しの倫理性や暴力性が写し込まれており、社会的ドキュメンタリーの「正義感」が蓋をしようとするものが噴き出してくる。
一方、ページの展開=福島が老人たちと共有した時間の厚みに伴って、「カメラを向ける=イメージの奪取」という不均衡な関係性から、「カメラを介したコミュニケーションの発生」という別の側面が見えてくる。それは同時に、「孤独でかわいそうな独居老人」というステレオタイプを裏切っていく。手芸や絵を描くなどの趣味を見せる人、モノクロの記念写真を見せてくれる人。「こちらにコンパクトカメラを向ける高齢女性」のカットはきわめてメタ的な一枚である。福島、そして私たち自身もまた見つめ返されているのだ。
また、コロナ下の状況で福島の写真を見ることで、改めて見えてくる対照性がある。コロナ下の街を駆けるUber Eatsなどの配達員は、依頼主にとって、「おうち」内への安全な隔離、すなわち社会から遮断された状態の象徴だ。一方、独り暮らしの老人に弁当を届ける配達員は「安否確認も仕事のうち」であり、むしろ、外部の社会と彼らをつなぎ留める、細く、ごくわずかな紐帯なのである。
見方を変えれば、福島の写真作品は、「部屋と住人」の写真のバリエーションのひとつと捉えられる。例えば、都築響一の『着倒れ方丈記』は、アイデンティティとしての特定のブランドの衣服で埋め尽くされた部屋をその住人とともに写し、『IDOL STYLE』ではアイドルとそのオタクを(グッズなどやはり大量のモノで溢れる)自室の中で撮影する。共通するのは、窃視的な欲望の喚起とともに、ファッションであれ、サブカルや推しであれ、「住人の生と個性が高濃度に凝縮された繭のような空間」としての私室である。また、横溝静の「ストレンジャー」では、文字通り「フレーム」かつ「境界」としての「窓」を挟んで、写真家/私たちは、部屋の中に佇む見知らぬ住人と対峙する。
ほとんど部屋から出ない(出られない)老人たちにとって、「部屋」は生の領域のほぼすべてである。その確固たる中心にあるのが、命をつなぐ行為としての「食べること」にほかならないことを、穏やかに、無心で、よだれかけ代わりの新聞紙にくるまって懸命に弁当を食べる老人たちの姿は示している。「入れ歯」を掴む手は、生へと手を伸ばし続ける意志のように見える。
なお、写真集の出版に合わせ、同名の個展が東京の IG Photo Galleryにて、9月25日まで開催されている。
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KG+SELECT 2019 福島あつし「弁当 is Ready.」|高嶋慈:artscapeレビュー(2019年04月15日号)
2021/08/31(火)(高嶋慈)
川内倫子『Des oiseaux』
発行所:HeHe
発行日:2021/06/27
元田敬三の『渚橋からグッドモーニング』(ふげん社、2021)もそうなのだが、新型コロナウィルス感染症拡大による緊急事態宣言は、写真家の意識に大きな変化をもたらしたようだ。川内倫子が2020年4月から6月にかけて撮影したのは、千葉の自宅付近で見つけたツバメの巣である。口を開けて餌を待つ雛鳥たちが、次第に大きくなり、もうすぐ巣立ちというところまで成長していく。その間に、季節の変化を示す身辺の風景が挟み込まれている。
川内がツバメたちにカメラを向けたのは、日本中が死の影に覆い尽くされていたこの時期だからこそ、逆に「いのち」が大きくふくらんでいく様子に心惹かれたからだろう。ツバメの営巣は、毎年の見慣れた眺めだが、とりわけ2020年から2021年のコロナ禍の時期においては、特別な意味をもって目に飛び込んできたのではないだろうか。川内はつねに生と死の狭間に鋭敏な意識を持ち続けてきた写真家だが、この時期にはそれが特に研ぎ澄まされていたように感じる。
とはいえ、写真からはそんな切迫感はほとんど感じられない。せっせと餌を運ぶ親鳥も、それを待ち望む雛鳥たちも、「いのち」そのものを体現した姿で、柔らかな光に包み込まれて写っている。川内の仕事としては、メインのものとは言えないかもしれないが、「Des oiseaux(On birds)」というタイトルを含めて、とてもよく考えられ、しっかりとまとめ上げられた写真集だ。なお、本書はフランスのEditions Xavier Barralから刊行された写真集の日本語版である。
2021/08/18(水)(飯沢耕太郎)
元田敬三『渚橋からグッドモーニング』
発行所:ふげん社
発行日:2021/08/18
元田敬三は、強い存在感を発する人物に路上で声をかけ、正対して撮影する写真を中心に発表してきた。だが、次第に自分の写真のあり方に疑問をもつようになり、2017年から日付を入れる機能がついたコンパクトカメラにカラー・ポジフィルムを詰め、身の回りの出来事にカメラを向けるようになる。日常の光景をスライドショーの形で発表するトヨダヒトシの仕事を知り、共感とリスペクトを覚えたということもあったようだ。
その「写真日記」のシリーズは、2020年6月にコミュニケーションギャラリーふげん社で開催された「東京2020 コロナの春~写真家が切り取る緊急事態宣言下の日本~」展に出品され、同年9月~10月の同ギャラリーでの個展を経て、小ぶりだが厚みのある写真集にまとまった。
写真集には、2018年7月から2021年5月にかけて撮影した365枚の写真がおさめられている。ページをめくっていくと、2020年4月から5月の新型コロナウィルス感染症拡大にともなう緊急事態宣言期間を挟んで、写真の質が微妙に変わっていることに気がつく。行動範囲が狭まり、神奈川県逗子の自宅近辺の「空と海」に目を向けることが多くなってくる。タイトルの「渚橋」というのは、早朝のアルバイトに出かける時に必ず通る桟橋の近くの、富士山を望む橋のことだ。一緒に過ごす家族にカメラを向ける機会も増えた。その間に、母親の入院と死という大きな出来事もあった。
淡々と気負いなく綴られた「写真日記」だが、どの写真を選び、どう組み合わせるのかは、緊密にプランニングされている。結果として、何事もなく過ぎていくように見える日々の断片が、特別な輝きを帯びて目に飛び込んできた。一見地味な仕事だが、このような作業をベースにすることで、写真家としてのさらなる飛躍を期待できるのではないだろうか。
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元田敬三「渚橋からグッドモーニング」|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2020年10月01日号)
2021/08/18(水)(飯沢耕太郎)