artscapeレビュー
2013年07月01日号のレビュー/プレビュー
木洩れ陽の宇宙II 山本修司 作品展
会期:2013/06/08~2013/07/14
尼信会館[兵庫県]
山本が近年精力的に発表している《木洩れ陽》シリーズを中心に、約25点の作品が出品された。その多くは、これまでに画廊で見たことがある作品だが、美術館並みの空間に並べてみると、やはり新たな感動がある。彼の作品は、木洩れ陽から敷衍して宇宙的スケールにまでイマジネーションが飛躍する。それゆえ広大な展示空間で本領を発揮するのだ。ユニークだったのは床置きされた1点の新作。雪見障子のごとく低位置に設置された窓に合わせた、サイトスペシフィックな作品だ。ただ、千変万化の天然光には山本も手を焼いたらしい。私が訪れた時間帯は発色が沈んで見え、少々残念だった。
2013/06/14(金)(小吹隆文)
稲垣元則 427 Drawings
会期:2013/06/15~2013/07/13
ギャラリーノマル[大阪府]
ギャラリーの4つの壁面は、大量のドローイングで埋め尽くされていた。作品のサイズはすべてB4。なかにはかなり日焼けしている作品もある。それもそのはず、本展は稲垣元則が21年前から日々描き続けている膨大な数のドローイングのなかから、427点を選んで展示しているのだ。作品は緩やかに年代順に展示され、同時に類似するイメージ同士が集合するように配置されている。説明文の類はないが、作品を見ていると一作家のイマジネーションの変遷が十分感じ取れる。なかには、稲垣自身はいまさら見せたくない作品も混じっていたが、展覧会の趣旨を尊重し、あえて出品したそうだ。見せ方はシンプルでも、コンセプトを徹底すれば展覧会は面白くなる(もちろん作品の質が保たれていることが前提条件だが)。本展はその見本である。
2013/06/15(土)(小吹隆文)
マギー・マラン『Salves──サルヴズ』
会期:2013/06/15~2013/06/16
彩の国さいたま芸術劇場[埼玉県]
一言でいえば「ドタバタ悲劇」。ラストの5分は「ドタバタ悲喜劇」。5台のオープンリールが舞台を囲む。冒頭、この機械で再生するテープをダンサーたちがマイムで手繰ってみせる。その後は、5秒から10秒のきわめて短いシーンが暗転を挟んでひたすら連なってゆく。たとえば、一文字に腰掛けた男女、不意に現われた黒人や軍人が横から割り込むと端の一人が押し出され、倒れてしまうとか。とくに繰り返されるのは、あわてる人間たちの姿とか。なにに追われているのか判然としないが、あわてるさまは緊張しているようでも緊張している振りのようでもある。特徴的なのは、皿とか彫刻像とかを数人でバケツリレーしているあいだに、それらが床に落ち、割れてしまう場面。これが何度も繰り返される。割れた皿を集めて復元してみせたりもする。暴力が文化や伝統を破壊することのメタファー? しかし、不思議なくらい、戦慄が、見るこちらの心に迫ってこない。堆積していくシーンが暗転を挟んでいるからか、映画の一場面のように見えてしまい、その分、間近な舞台で実演されていることなのに迫真的でないのだ。世界に潜む不安を取り上げてはいるものの、この取り上げ方だと、不安な出来事を安心な距離から見つめている格好になってしまう。アイロニカル、でもそれでいいの?と思わされる。始終流れていたフランス語の語りをぼくが聞き取れなかったことが致命的問題だったのかもしれないが。最後の5分は、それまで暗かった舞台が突然明るくなり、大きなテーブルが用意され、パーティでも開かれそうな様子になる。しかし、ささいなことで、人々はけんかを始める。顔にカラフルなペンキを投げつけ合う。叩き合って、パーティが台無しになって終わる。悲劇の後の喜劇は、喜劇それ自体の力を発揮する余地なく悲劇をより悲劇的に(悲惨なことに)する。世界を転がす難しさ、生きることの苦しさは描いたのかもしれない。けれども、そんなこと当たり前じゃないとも思ってしまう。むしろ、難しいと苦しいと思い込んでしまう精神の硬直を解きほぐす力こそ、ダンスの力なのではないか。その意味では、もっと踊って欲しかった。短いシーンを積み重ねるやり方は、ピナ・バウシュを連想させたが、バウシュが踊りの内に盛り込んだ「精神を解きほぐす力」はここにはなかった。ただ悲しくもなく可笑しくもないドタバタがあるだけだった。
2013/06/16(日)(木村覚)
ムサビのデザインIII デザインが語る企業理念:オリベッティとブラウン
会期:2013/06/03~2013/08/18
武蔵野美術大学 美術館[東京都]
オリベッティ社とブラウン社は、ともに20世紀の多くのデザイナーに影響を与えた存在であるが、その製品分野や、デザインの用いられかたには違いがある。1908年にイタリアのイブレアに設立されたオリベッティ社は、タイプライター製造を出発点として計算機やオフィス家具などの事務機器の分野で事業を拡大した。1921年にドイツのフランクフルトに設立されたブラウン社は、音響機器、シェーバー、家電製品など、生活に身近な分野に優れたデザインの製品を提供してきた。オリベッティ社はさまざまなクリエーターたちと仕事をし、そのカラフルで印象的なプロダクト・デザインばかりではなく、広告においても製品がつねに先端にあることを印象づけてきた。また、工場やオフィスの建築にも特徴があり、芸術の支援にも力を注ぎ、企業のブランドイメージを形成してきた。他方で、ブラウン社はデザイナーであるディーター・ラムスのもとで統一された色彩とデザイン言語を用い、機能的な製品とのイメージをつくりあげていった。
「ムサビのデザイン」第3弾は、デザインによってブランドイメージを形成したオリベッティとブラウンという二つの企業に焦点を当て、武蔵野美術大学美術館が所蔵するプロダクト、ポスター、製品カタログや、ノベルティなどを約200点が出品されている。展示品に触れることはできないが、ガラスケースに入れられているのではなく、至近距離から製品の素材や質感、構造を観察することができる。写真撮影も可能である。展覧会図録(このブックデザインは一見に値する)には、2009年にサントリーミュージアム天保山と府中市美術館で開催された「純粋なる形象 ディーター・ラムスの時代──機能主義デザイン再考」展シンポジウムのテキストが収録されており、資料としての価値も高い。ただ展覧会の構成としては、両社のデザインを取りまいていた社会的背景について歴史年表を提示するに留まっており、「企業の理念」の形成についてはもう少し解説が欲しい。[新川徳彦]
関連レビュー
2013/06/17(月)(SYNK)
サラ・イレンベルガー+木之村美穂「Reality & Fantasy」
会期:2013/05/17~2013/08/16
DIESEL ART GALLERY[東京都]
ベルリンを拠点に、雑誌や広告のための立体イラストレーションやウィンドウ・ディスプレイなどのフィールドで活躍するサラ・イレンベルガーの写真とオブジェの作品展。
モチーフは身の回りのありふれたモノなのだけれども、どこかが奇妙。たとえば虹の写真。しかし、柑橘類の皮でできている。金色の林檎。だけれども、髪の毛の束。会場の片隅に立つマイク・スタンドの先には、マイクの代わりに丸い電球が光っている。野菜のドレス、毛糸を編んでつくられた内臓、カット・フルーツのルービック・キューブ、卵の殻のマトリョーシュカ、ザクロの手榴弾、ライターからは唐辛子の炎があがる。表面を削ってふたつにカットされたカリフラワーは、どうみても脳髄。見知ったオブジェがまったく異なる素材でつくられていたり、道具の一部が別のものに置き換えられていたり、モチーフと素材とのギャップからもたらされるユーモアとイメージの二重性に思わず微笑んでしまう。ブラック・ユーモアではない。明るい色彩、手作りのオブジェは、いずれもポジティブで楽しいものばかり。展覧会では本展を企画したクリエイティブ・ディレクター木之村美穂とのコラボレーションによる映像作品も上映されている。白と金色の紙を重ねてひねってつくったポップコーンや、電球型蛍光灯をソフトクリームに見立てた作品は、来日時に合羽橋で入手した素材でつくった新作だそうだ。[新川徳彦]
2013/06/19(水)(SYNK)