artscapeレビュー

2009年03月01日号のレビュー/プレビュー

カンパニー マリー・シュイナール「オルフェウス&エウリディケ」

会期:2009/02/06~2009/02/08

北千住・シアター1010[東京都]

10人ほどのダンサーたちは、男女とも黄金のニップレスのみの裸身。真っ白な舞台に白い肌が際だつ。奇声を拾うマイクとか、身体を拡張させる衣装・オブジェとか、エロティックかつユーモラスきわまりないポーズとか、シュイナールらしい仕掛けは、とてもかわいく、ポップで、美しい。とはいえ、彼女の最大の魅力はそうした収まりのよいポイントではなく、観客を圧倒するフィジカルなプレゼンスにあるといいたい。中盤、長尺のラッパを轟音で吹き鳴らし、全員がバラバラで狂ったように踊りまたポーズをひたすら決め続けるところは、紅潮する肌とか揺れる胸など、目の前で躍動する身体の激烈さに、ひたすら高揚してしまった。「揚がる」感覚へ向けてすべての要素が結集している。そうした戦略に、舞台表現としてのダンスの今日的な指針が示されている気がした。
カンパニー マリー・シュイナール:http://www.mariechouinard.com/

2009/02/08(日)(木村覚)

人生劇場 鬼海弘雄 写真展

会期:2009/02/05~2009/03/01

GALLERY RAKU[京都府]

鬼海が1973年以来撮り続けているポートレイト写真のシリーズから、約50点を紹介。すべて東京・浅草寺の壁の前で撮影されており、被写体は市井の人々ばかりだ。とはいえ、誰もがあまりにも個性豊かで、臭ってきそうな濃いオーラを放っている。なかにはとても平成の世とは思えない人も。浅草の土地柄が彼らを呼び寄せるのだろうか。そういえば大阪の新世界にも彼らと似た雰囲気の人々がいる。一貫して真正面から撮影し、肖像画を思わせる高潔な作風にすることで、かえって素の人間性を露わにしているのが見事だ。

写真:《革の背広を着た男 1985》

2009/02/11(水)(小吹隆文)

FIX

会期:2009/02/09~2009/02/15

元立誠小学校[京都府]

元小学校の校舎2フロアを会場に、今村遼佑、SHINCHIKA、鈴木宏樹、谷澤紗和子、羽部ちひろ、桝本佳子、本武史、吉岡千尋の8作家がグループ展を開催。面白いのは、作品の配置が2つのフロアでコピーされたように同じだったこと。各作家が同タイプの作品2点を持ち寄り、上下階の同じ位置に作品を設置していたのだ。何も知らず次の階に行くとデジャヴに見舞われ、幾つもの「?」がやがて「!」へと変わる。エコー効果で作品への印象をより強めようということか。校舎を会場に選んだのは、同じ部屋(=教室)が並ぶ構造が展覧会の意図と合致しているからだろう。とにかく、珍しい試みだったことは確かだ。

2009/02/11(水)(小吹隆文)

黒田オサム Performance77

会期:2009/02/11

テルプシコール[東京都]

ホイト芸パフォーマーとして知られる黒田オサムの公演。絵描きとしての黒田オサムの誕生秘話を物語る紙芝居から、乞食芸のパフォーマンス、黒田自身による革命演説歌の唱和など、盛りだくさんの内容で、楽しめた。来場者に配布されたパンフレットに収録された、黒田オサムロングインタビューもたいへん貴重な資料。上野の山の乞食や男娼の暮らしぶりから、敗戦後に群馬で立ち上げた「ホワイトグループ」についての証言、アナキズムの歴史的展開にいたるまで、とうとうと語るその語り口にひきこまれる。たとえば、こんな具合。「おたまじゃくしが読めなくてもね、おたまじゃくしが語りだしてね。おたまじゃくし以前に、音はあったわけですからねぇ(笑)」。

2009/02/11(水)(福住廉)

第12回文化庁メディア芸術祭

会期:2009/02/04~2009/02/15

国立新美術館[東京都]

毎年恒例のメディア芸術祭。昨年に比べて会場がコンパクトになっていたものの、例年どおりテクノロジー系のメディア・アートが幅を利かせていた。そうしたなか、ひときわ際立っていたのが、Mark FORMANEKの《Standard Time》という映像作品。木材を組み合わせて巨大なデジタルカウンターをつくり、時間の進行にあわせて、その数字を人力で組み替えていく様子を映し出すもの。原則的に一分以内に作業を完了させているけれど、たとえば「6」から「7」への作業はかなりハードで、その必死さが笑える。重労働を捨て去りながら身体感覚を限りなく延長させていくハイ・テクノロジー全盛の時代にあって、もう一度私たちの感覚を身体労働にシフトダウンさせる、傑作だ。

2009/02/13(金)(福住廉)

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