2018年01月15日号
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artscapeレビュー

未来への狼火

2017年06月01日号

会期:2017/04/26~2017/07/17

太田市美術館・図書館[群馬県]

1881(明治14)年、高橋由一は《螺旋展画閣》を構想した。文字どおり螺旋状の回廊を昇り降りしながら壁面に展示された油絵を鑑賞するという、ある種の美術館である。由一は日本橋を望ましい立地として考えていたらしいが、結局この構想は実現せず、現在ではその文書と図面が辛うじて残されているにすぎない。しかし、由一によるこの二重螺旋構造の楼閣は、明治期に輸入された「美術」概念の制度化の開始を告げる象徴的なモニュメントとして位置づけられている(北澤憲昭『眼の神殿』ブリュッケ、2009)。事実、それは江戸的な見世物性を排除する一方、絵画を一定の秩序のもとで展示することによって、この世の森羅万象を視覚的なイメージとして統合する装置だった。
高橋由一の《螺旋展画閣》の話から始めたのはほかでもない。この4月に開館した太田市美術館・図書館の建築的な特徴が、由一の《螺旋展画閣》の構想と著しく近しいように思われたからだ。吹抜けの空間を中心に、その周囲を回廊が螺旋状に取り囲む。館内を巡り歩くうちに、いつのまにか上階へと移動しているという経験が何より楽しいし、このような文化施設に恵まれた太田市の子どもたちが心底うらやましい。ただ異なっているのは、その動線が単線的ではなく複線的であること、そしてその回廊には美術が展示されているわけではなく、図書が陳列されているという点である。
美術館は館内の中央部に組み込まれていた。回廊や階段によって接続された大小さまざまな展示空間を移動しながら鑑賞するという仕掛けである。開館記念として催された本展は、太田市という歴史的風土のなかで生まれた絵画や写真、映像、工芸、詩など、9名のアーティストによる作品を見せたもの。いかにも総花的な展覧会で漫然とした印象は否めないが、それでも見応えがある作品がないわけではなかった。
例えば淺井裕介の泥絵はすでに各地で発表され高く評価されているが、今回最も大きな展示空間で発表された作品は以前にも増してダイナミックな魅力を倍増させていた。それは、消すことによって描くスクラッチの技法をより効果的に画面に取り込んでいたばかりか、メディウムの飛沫やしたたりをおそらくは意識的に前面化させていたからだろう。ときとして単調になりがちだった泥絵の画面に、果てしない広がりと奥行きをもたらすことに成功していたのである。
だが本展の拡散した印象はキュレーションに起因するというより、むしろ建造物の性格に起因しているのではないか。なぜなら本館における美術館の機能は図書館のそれと絶妙な距離感で隔てられており、そうであるがゆえに、この美術館には《螺旋展画閣》のような視覚効果を取り込むことが期待できないからだ。美術館と図書館を棲み分けるのではなく、双方を有機的に統合する方向にこそ、未来の狼火は立ち上がるのではないか。

2017/05/07(日)(福住廉)

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