artscapeレビュー

2013年01月15日号のレビュー/プレビュー

胎内巡りと画賊たち~新春 真っ暗闇の大物産展~

会期:2013/01/10~2013/01/20

京都伝統工芸館内 京都美術工芸大学付属京都工芸美術館[京都府]

東京を拠点に活動する画家集団・画賊が、関西の天野萌、木内貴志、木村了子、建築ユニットmono.をゲストに迎え、京都で展覧会を開催。こけしや貝殻の置物といった伝統的な民芸品をモチーフに「新しい物産」を発表すると同時に、「胎内巡り」(真っ暗な迷路空間を通って明るい地上に戻る体験を通して、仏教の教えに導かれる過程を疑似体験する行為)が体験できる。観光都市京都の一角で繰り広げられる、怪しげなムード満載の脳内リゾートはいかが。

2012/12/20(木)(小吹隆文)

溶ける魚 つづきの現実

京都精華大学ギャラリーフロール、Gallery PARC[京都府]

会期:2013/01/10~2013/01/26(Gallery PARCは01/20まで)
アンドレ・ブルトンが1920年代に発表した小説『溶ける魚』をタイトルに冠した本展。しかし、10人+1組の出品作家にシュルレアリストはいない。シュルレアリスムが誕生した時代背景──第一次大戦や経済恐慌で疲弊した20世紀初頭のヨーロッパ──と、東日本大震災、原発事故、長引く経済不況、不毛な政治などの状況を抱える現代の日本に奇妙な一致を感じた作家たちが、今自分たちがなすべきことを真摯に考え、『溶ける魚』以後(=つづきの現実)を提示する場として、自らの仕事を世に問うのだ。いささかものものしい説明になってしまったが、本展は近年京都で活発化しつつある若手美術家たちの自主企画のひとつとして注目に値する。衣川泰典、高木智広、荒木由香里、花岡伸宏、林勇気など、作家のラインアップにも期待が持てる。

2012/12/20(木)(小吹隆文)

プレビュー:MIO PHOTO OSAKA 2013

会期:2013/01/30~2013/02/03

天王寺ミオ 12階ミオホール、11階ライトガーデン[大阪府]


1998年から始まった写真の公募展。昨年から形式が大幅に変更され、次年度の個展開催をかけた公開ポートフォリオレビューと、前年に選ばれた作家たちによる個展の2本立てイベントとなった。審査員は昨年同様、島敦彦(国立国際美術館学芸課長)、今森光彦(写真家)、森村泰昌(美術家)の3名。また、前年のポートフォリオレビューで選ばれた井上尚美、角木正樹、山下望の3名が個展を開催する。さらに、森村泰昌の制作現場を撮影した写真家・福永一夫の作品展と、森村×菅谷富夫(大阪市立近代美術館建設準備室)の対談もセットされており、内容の濃い5日間となる。

2012/12/20(木)(小吹隆文)

石塚元太良「氷河日記 グレイシャーベイ」

会期:2012/12/06~2013/12/28

SLOPE GALLERY[東京都]

石塚元太良は2010年にシーカヤックでアラスカの湾岸を移動しながら、氷河を撮影するというプロジェクトを行なった。2011年には文化庁在外芸術家派遣員としてアメリカに滞在して、前に写真集(『PIPELINE ALASKA』2007)にまとめたアラスカの石油パイプラインのシリーズを撮影し直した。さらに2012年にはアイスランドにアーティスト・イン・レジデンスで滞在して、当地の地熱エネルギーを利用したお湯のパイプラインを撮影している。それ以前から世界中を飛び回る行動力には定評があったのだが、近年は移動の範囲がより広がるとともに、プロジェクトを着実に形にしていくことができるようになってきた。
本展では2010年7〜8月に、キャンプしながらアラスカ・グレイシャー湾をカヤックで回ったときの写真を展示している。35ミリカラーフィルムで撮影した、縦位置のスナップショット写真16点が中心だが、大判カメラで撮影した氷河の写真3点も、大きく引き伸ばして展示している。移動しつつ、軽やかに被写体を捉えていくスナップショットも悪くないが、光を透かして青く輝く氷河の表層をなぞるように写しとった写真に、石塚の写真家としての姿勢がしっかりと定まってきていることがうかがえた。いま制作中というアラスカとアイスランドの石油パイプラインのシリーズが、どんな形でまとまってくるのかが楽しみだ。1977年生まれの彼にとっては、写真を通じて歴史観、世界観が問われる正念場の時期を迎えつつあるのではないかと思う。
なお、展覧会にあわせて小ぶりなサイズの写真集『氷河日記 グレイシャーベイ』も刊行されている。自費出版の、手作り感が漂う写真集だが、逆に写真にもテキストにも自分の思い通りの形にしていこうという爽やかな意欲がみなぎっている。これまで彼が刊行してきた写真集のなかでも、一番いい出来栄えかもしれない。

2012/12/20(木)(飯沢耕太郎)

向雲太郎『アホとロマンの皮袋』

会期:2012/12/21~2012/12/22

中野テルプシコール[東京都]

今年、大駱駝艦を退団した向雲太郎(以下、向と略称)が、退団後上演した初のソロ公演。こたつとその真上に吊った流木みたいなクリスマスツリー。そこでしばしごろごろしていた向はあっと我に返り、あわててしたのは白塗りすることだった。本作に向が用意した最大の仕掛けは、この白塗りをしてその後落とすというもので、向のダンサーとしての実存を確認するものであると同時に、白塗りの謎に光を当てる趣向となっていた。白く塗っていくと肌は生々しさを奪われる分、艶めかしさを帯びてくる。「塗る」という仕方で肌は一種の衣裳を纏うのだ。また素肌でギョロリと目を剥いても出ない効果が白塗りにはある。そうか、コントラストをつけ、小さい動きを際立たせ異形の存在を造形する白塗りは、舞踏を漫画チックにする力だったのだ。その漫画性は白塗りを「落とす」とやはり消えてしまう。「塗る」と「落とす」という仕掛けは、マジックの種明かしのような、禁断のネタだった。それにしても、向は器用なダンサーだ。舞踏という枠にとらわれない、ダイナミックで軽快な動きには、ときにヒップホップダンスのテクニックとの類似性まで感じさせられる。獅子舞のように、こたつの布団を被って頭に白い骸骨を載せて踊ったときなどは、大道芸的なユーモアも感じさせて観客を笑わせた。大駱駝艦で培ったものをベースに、新しい要素を取り込みながら、自分らしいダンスを模索する向。さて、これからどこに行こう。いつか「アホ」と「ロマン」が詰まった皮袋をなんども裏返しにしていくような、奇想天外に状況の展開する作品が見てみたいものだ。

2012/12/21(金)(木村覚)

2013年01月15日号の
artscapeレビュー