artscapeレビュー
マリオ・デ・ビアージ「CHANGING JAPAN 1950-1980」
2011年11月15日号
会期:2011/09/27~2011/10/30
JCII PHOTO SALON[東京都]
マリオ・デ・ビアージは1923年生まれのイタリアの写真家。1953年にグラフ雑誌『Epoca』のスタッフ・カメラマンになり、世界中を駆け回って同誌に写真を寄稿してきた。1956年のハンガリー動乱の生々しい記録写真が代表作として知られている。日本には1950年代から11回も訪れ、さまざまなテーマの写真を撮影した。特に1970年代の高度経済成長期の人々とその暮らしを撮影した写真群は、貴重な記録といえるだろう。
デ・ビアージの写真を見ていると、腕利きのフォト・ジャーナリストの仕事ぶりがどのようなものであるかがよくわかる。目についたもの、撮りたいものにカメラを向け、シャッターを切っていることは確かだが、そこにはいつでも読者の眼を意識する姿勢がある。彼らがどんな写真を見たいのか、何を求めているのかを敏感に察知して、そのような被写体にアンテナを向けているのだ。
その結果として、カプセルホテルの女性客、地下鉄のホームでゴルフの練習をする会社員、客にお酌をする宴たけなわの芸者といった、イタリア人にとってエキゾチックな日本の風俗が的確に押さえられている。ヌードスタジオで、全裸で笑顔を見せる女性のポートレートなど、こんな写真がよく撮れたものだと驚いてしまう。それらの多くは、現在のわれわれから見ても充分にエキゾチックな魅力を発している。ということは、既に30年もの時が過ぎてしまったことで、1970年代の記憶、そこにまつわりつく匂いや手触りのようなものは、写真を通じてしか喚起されなくなっているということだ。イタリア人の眼差しを介して、あらためて過去の日本を知るというのも奇妙な体験ではあるが、写真が開かれたメディアであることを証明しているともいえそうだ。
2011/10/12(水)(飯沢耕太郎)