artscapeレビュー
2011年11月15日号のレビュー/プレビュー
大友真志『GRACE ISLANDS──南大東島、北大東島』
発行所:KULA
発行日:2011年8月23日
大友真志は2004年からphotographers’ galleryに参加し、2010年には1年間(全13回)にわたって故郷の北海道北広島市の実家の周辺と家族を撮影した「Mourai」のシリーズを発表するなど、その表現力を深めてきた。その彼の最初の写真集として、photographers’ galleryが新たに立ち上げた出版部門KULAから刊行されたのが、『GRACE ISLANDS』である。
大友が撮影したのは「琉球弧からはじき出されたように太平洋に浮かぶ」南大東島と北大東島である。たまたま2007年に彼自身が実行委員として参加した「写真0年 沖縄」展(那覇市民ギャラリー)で大東島のことを知り、その後10日間ほど滞在した。持っていった300本のフィルムをすべて使い切ったという。彼のなかに、自分の故郷とは対極の場所(北と南)という意識はあったに違いないが、結果としてみれば大東島の写真は、「Mourai」と受ける印象としてはそれほど違いのないものになった。物寂しい、草むらが大きな部分を占める風景への向き合い方、倉石信乃の解説の文章を借りれば「主題や被写体と呼びうるものからの遠ざかりと、風景を『そこ』に停留させておくことへの意志」が共通しているのだ。とはいえ、たしかに「主題や被写体と呼びうるもの」の影は薄いが、この写真集からは拒絶や疎外などネガティブな感情は見えてこない。むしろこのような風景のあり方を、できうる限り節度を保ちつつ、受容していこうとする強い意志を感じる。『GRACE ISLANDS』というタイトルは、やや意外な感じがするかもしれないが、写真集のページをめくっていくうちに大友がこのタイトルを選んだ思いが伝わってくる気がした。
なお写真集の刊行にあわせて、2011年8月23日~9月30日にphotographers’ galleryで同名の展覧会が開催された。
2011/10/01(土)(飯沢耕太郎)
せんだいスクール・オブ・デザイン 2011年度春学期成果発表会
会期:2011/10/01
東北大学工学研究科中央棟DOCK[宮城県]
せんだいスクール・オブ・デザイン2011年度の春学期成果発表会において、「文化被災」を特集した『S-meme』2号の報告を行なった。袋とじ製本だが、通常とは違うスタイルである。まず最初の状態で東浩紀インタビューを普通に読めるのだが、ページのあいだを切り裂くと、別のテキストが出現し、それもさらにもう一度上部を切ることができ、隠れた文章があらわれる。テキスタイル・コーディネーター、デザイナーの安東陽子によるゲストレクチャーでは、最初に百貨店で販売を経験し、お客にあった洋服を選んだことから、今の仕事につながったことを知った。実際、伊東豊雄が来客し、建築の仕事に接点が生まれたという。
2011/10/01(土)(五十嵐太郎)
小沢さかえワークショップ「あたらしい星座」
会期:2011/10/02
京都市美術館[京都府]
「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展──印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション」関連企画として開催されたワークショップ。印象派の絵画にならい、「描くことを見つめなおす」というテーマで行なわれた。1回目の講師は画家の小沢さかえさんで「あたらしい星座」というタイトルも魅力的だったので参加した。内容は、黒いケント紙の画面に散りばめるようにジェッソで白い点を打ち、それらの点と点を結んで思い思いにイメージをつくり、さらにアクリル絵の具で絵を描いたり着彩していくというもの。参加者のほとんどは大人だったのだが、普段は絵の具にも筆にも触れることがないという人が多かった様子。私もその一人で、はじめは緊張して手つきも恐るおそるだったが、他の参加者とおしゃべりしながら進めていると、どんどん画面に色が増え、イメージもころころと変わっていく。終了時には、全員で各作品を見て回ったのだが、テーマから逸れることなく星空や宇宙のイメージを描いたもの、まったく星図や星座とは関係ないように見えるものなど、完成作品も実にさまざまで面白い。想像力を自由に働かせ絵を描くということの難しさも改めて思い知った気分だったが、他の参加者がどんな感想をもったのかも気になる。なんにしろ、このようなワークショップがあると展覧会鑑賞においてもまた違う楽しさがあじわえるはず。今後にも期待したい。
2011/10/02(日)(酒井千穂)
東松照明「東松照明と沖縄 太陽へのラブレター」
会期:2011/09/23~2011/11/20
沖縄県立博物館・美術館[沖縄県]
2011年4月~6月に「写真家・東松照明 全仕事」展(名古屋市美術館)を開催したばかりの東松照明が、今度は沖縄県立博物館・美術館で240点あまりの作品を展示する大展覧会をスタートさせた。タイトルが示すように、1969年に「パスポートまがいの身分証明書を持って」はじめて沖縄を訪れてから近作に至る、沖縄関連の写真群の集大成である。沖縄行きのきっかけになった日本各地のアメリカ軍基地のルポルタージュ「〈チューインガムとチョコレート〉1959-67」を第I章とし、以下「占領シリーズ最後の地『沖縄』〈OKINAWA 沖縄 OKINAWA〉1969」「『さびしさを思想化せよ。』〈太陽の鉛筆〉1969-1973」「カラーへの転換〈南島〉〈光る風〉1973-1979」「写真はイメージで綴るラブレター〈琉球ちゃんぷるぅ〉-2011」と続く。こうして見ると、1975年に写真集『太陽の鉛筆』(毎日新聞社)にまとめられる1972~73年の沖縄滞在、さらにその後の東南アジア旅行が、東松の作品世界の展開に決定的な影響を与えたことがわかる。「撮るのではなく、撮らされる」ことを受容するのびやかなスナップショットの成立、モノクロームからカラーへの転換による官能的な色彩への開眼が、この時期に相次いで起こってきているのだ。その意味で、東松の写真家としての軌跡を辿るうえで、沖縄の写真群は要の位置にあるといえるのではないだろうか。
ところで、東松がこのところ立て続けに大きな展覧会を開催できているのは、2003年頃からプリントを完全にデジタル化したためでもある。今回の展示では、カラー作品だけでなく、モノクローム作品でもデジタル・プリンターを使用したものが増えていた。以前は、カラープリントは専門のラボにまかせるしかなく、満足できるクオリティを保つには、長期にわたる煩雑なやりとりが必要だった。デジタル・プリンターの性能が急速に上がったことで、プリント処理を自分の手で行なえるようになった。そのことによって、美術館で展示するような大判の作品でも、最後までコントロールできるようになったのは、東松のようなプリントに独自の美意識を発揮するタイプの写真家にとって朗報だったのではないだろうか。デジタル化が写真家の作品制作のあり方をどのように変えていったかについては、もう少しきちんと検証していかなければならないと思う。
2011/10/02(日)(飯沢耕太郎)
畠山直哉 展 Natural Stories ナチュラル・ストーリーズ
会期:2011/10/01~2011/12/04
東京都写真美術館[東京都]
自然への人工的な介入による崇高な風景(「ブラスト」や「テリル」のシリーズなど)がメインだが、今回注目された彼の故郷である陸前高田は、逆に自然が人工的な環境に暴力的に介入した風景といえるだろう。陸前高田の3.11以前と以後が対峙する一角は、スペクタクル化を避けるべく、小さな写真となっていた。筆者が被災地を歩いた経験から、瓦礫の片付け具合を見ると、それぞれの写真がいつ頃に撮影されたものか大体わかってしまうことに気づいた。
2011/10/02(日)(五十嵐太郎)