2024年03月01日号
次回3月18日更新予定

artscapeレビュー

福島菊次郎 全写真展

2015年02月01日号

会期:2014/12/22~2014/12/27

パルテノン多摩 市民ギャラリー・特別展示室[東京都]

今年、94歳になる現役の写真家、福島菊次郎の個展。福島は2013年に公開されたドキュメンタリー映画『ニッポンの嘘 福島菊次郎90歳』で大きな注目を集めた写真家である。本展では、これまでに発表した約2,000点が一挙に展示された。広島の原爆から自衛隊、学生運動、公害、ウーマンリブなど、戦後日本の歴史が凝縮したような現場を写し出した白黒写真は、非常に見応えがあった。
なかでも注目したのは、雷赤烏族を撮影した写真。雷赤烏とは、1960年代末に、詩人の山尾三省を中心に結成された「部族」のひとつ。ヒッピーやビートニクの影響のもと、反都市社会や自然回帰を目指した、ある種のコミューンである。「部族」は国分寺や鹿児島のトカラ列島諏訪之瀬島などに拠点をつくったが、福島は八ヶ岳山麓の富士見高原に建設された雷赤烏の住処を訪ねた。
髭面で長髪、上半身は裸で、足元はわらじ。住居は円錐形の茅葺きだから、文字どおり原始人のような暮らしぶりだ。福島の取材メモによると、彼らは「木の実や貝殻のアクセサリーを身につけ、開墾を始め、畠を耕しているかと思うと、座禅や逆立ちを始め、陽が暮れると焚き火を囲み、空き缶を叩いて一晩中踊っている」。焚き火の前で踊り、井戸を掘る姿を写し出した福島の写真には、彼らに対する共感のまなざしが一貫しているように思われた。「大地とともに生きている人間たちは健やかである」。
むろん、このような活動を逝きし世のカウンターカルチャーとして退けることはたやすい。だが、都市文明の限界と矛盾が、雷赤烏の時代よりいっそうあらわになっている現在、彼らほど極端に先鋭化することはなくとも、彼らの活動と思想から学べることは多いのではないか。例えば、近年改めて評価が高まりつつある「THE PLAY」の主要メンバーである三喜徹雄は、かつて雷赤烏に参加していた。PLAYと雷赤烏のあいだに直接的な関係はないとはいえ、PLAYの作品に通底している野外志向には、雷赤烏との並行関係が認められないでもない。福島もまた、かつて瀬戸内海の無人島に住んでいたことがあるから、三者が交差する地点から現代的なアクチュアリティーを取り出すことができるかもしれない。

2014/12/27(土)(福住廉)

2015年02月01日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ