2022年04月15日号
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artscapeレビュー

スイスデザイン展

2015年02月01日号

会期:2015/01/17~2015/03/29

東京オペラシティアートギャラリー[東京都]

日本とスイスの国交樹立150年を記念して、スイスの文化を紹介する展覧会が各所で開催されている。本展もそのひとつで、スイスのグラフィックデザインとプロダクトデザイン双方の歴史と現在を包括的に紹介する構成の展覧会である。この展覧会を見るにあたって、スイスデザインのスイスらしさとは何かを探ってみようと考えていた。しかし、展覧会を見て感じたのは、スイスデザインにはスイスらしさがないのではないかということだった。言葉を換えると、スイスらしさを感じさせないところが、その特徴なのではないかということである。スイスデザインを語るときに合理性と普遍性という言葉が用いられる。確かにそうなのだが、合理性と普遍性を持ったデザインがスイス的であるわけではない。
 タイポグラフィを中心としたスイスのグラフィックデザインが戦後の世界のグラフィックデザインに与えた影響の大きさについては、デザインを学んだ者なら知っていることだろう。ユニヴァースやヘルベチカなど、スイスのデザイナーたちが開発した書体は世界中あらゆる場所で、公共機関や企業のポスターや掲示物、ロゴタイプとして目にすることができる。紙面を格子状に分割してテキストや図像を配置するグリッドシステムは、現在ではDTPやウェブデザインの基本になっている。しかしながら、たとえばヘルベチカを用いたロゴタイプにスイスらしさを感じる人はどれほどいるだろうか。書体あるいはデザインの様式には特定の時代、国や企業と密接に結びついてイメージされるものも多い。しかしヘルベチカにそのような印象を受ける者はいない。だからこそ、いろいろな企業がそれをロゴタイプに用いていてもイメージが互いにバッティングすることがないのだ。
 プロダクトデザインでも同様の印象を受けた。本展では8つのスイス・ブランドの製品と、ほかにも多くのデザイナーたちによるプロダクトが出品されているが、前提となる知識がなければどれほどのものをスイスのデザインと見分けることができようか。ビクトリノックスのナイフ、ジグの水筒、スウォッチの時計はスイスクロスをロゴやデザインの一部に用いてスイス・ブランドであることを示しているが、それ以外の要素はほとんどナショナリティを想起させないように思う。それでいながらけっしてドイツ的でもなく、フランス的でもなく、イタリア的でもない。もちろんそれはスイスブランドの製品に個性がないということではない。アイデンティティは個々のブランドとものづくりの精神に宿っているのだ。
 クリスチャン・ブレンドル(チューリッヒ・デザイン・ミュージアム館長)は、このようなスイスデザインの背景にあるものとして、小さな国土と文化の多様性を挙げている(本展図録、48頁)。ヨーロッパの中央に位置する小国。ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語が使われる多言語、多文化国家であること。国内市場が小さいために大量生産ではない高い品質のプロダクトに特化し、同時に国外に市場を求めてきたこと。また、両大戦時に中立であったことで、スイスはデザイナーや芸術家たちの避難場所になり、またスイス人デザイナーたちが国内にとどまらずパリ、ロンドン、ミラノで仕事をしたことで豊かな文化の交流があったという。なるほどそのような背景を考えれば、スイス出身でフランス国籍を持ち20世紀の世界の建築に大きな影響を与えたル・コルビュジエ、スイス出身でドイツのバウハウスに学びウルム造形大学を創設したマックス・ビルの仕事が大きなスペースで取り上げられている意図がわかる。[新川徳彦]


展示風景

2014/01/29(木)(SYNK)

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