artscapeレビュー

田中長徳「PRAHA Chotoku 1985・2016」

2016年12月15日号

会期:2016/10/20~2016/11/26

gallery bauhaus[東京都]

田中長徳にとってプラハは特別な意味を持つ街だ。1989年から2014年にかけては6区にアトリエを構えて、たびたび行き来していた。プラハの屋根裏部屋に暮らしていたのは、アトリエができる数年前からで、今回のgallery bauhausの個展では、1985年に撮影した27点と、2016年1月に改めてプラハを訪ねて撮影した34点、計61点のプリントが展示されていた。
その2つのシリーズの肌合いの違いが興味深い。6×9判のプラウベルマキナで撮影された1985年の写真は、日本の風土とは異質の石造りの街並みに即して、きっちりとした画面構成を試みている。ちょうどその頃のプラハは、「未曾有の市内大改築」の最中で、あちこちで敷石が掘り返され、建物が壊されて「まるで内戦のような」光景だったという。数年後の社会主義政権の崩壊を予感させるそんな眺めを、田中はあくまでも冷静な距離をとって撮影していた。
ところが、ライカ、コンタックス、キエフの35ミリカメラを併用して撮影したという2016年のプラハの写真の画面には、ブレや揺らぎが目立つ。ガラスの映り込みがカオスのような眺めを生み出し、真っ黒いシルエットとなった道行く人たちは、まるで亡霊のように彷徨っている。プラハに向き合うときの何かが、彼のなかで大きく変わったのではないだろうか。 DMに寄せた文章には「今回の写真展はあたしの『プラハ三十年』の終了宣言でもある」と書いている。その理由は明確に述べられていないのだが、写真からは確かに断念の怒りと哀しみが伝わってくるように感じる。その激しさに、いささかたじろいでしまった。

2016/11/09(飯沢耕太郎)

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