artscapeレビュー
つくることは生きること 震災《明日の神話》
2016年12月15日号
会期:2016/10/22~2017/01/09
川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]
東日本大震災から5年半が過ぎ、そろそろ「震災後」のアーティストたちの活動をしっかりと検証する時期に来ている。だが、美術館レベルでのこうした企画は意外に少ない。震災はすでに忘却の対象になりつつあるのだろうか。そんななかで、川崎市岡本太郎美術館で開催された「つくることは生きること 震災《明日の神話》」展は、そのテーマに真っ向から取り組んだ貴重な試みとなっていた。
会場の中央に、原爆と人類の運命とを重ね合わせた岡本太郎の《明日の神話》(1968)のエスキースと、彼が東北地方を1950~60年代に撮影した写真群を置き、9組(7人+2組)のアーティストたちの作品をその周囲に配している。「東北画は可能か?」(三瀬夏之助+鴻崎正武)、片平仁、安藤榮作、渡辺豊重、作間俊宏、平間至、大久保愉伊、岩井俊二、そして「アーツフォーホープ」(高橋雅子を中心とするアートNPO)という顔ぶれによる展示は、絵画、CG作品、彫刻、写真、映像など多岐にわたるが、主に東北出身、あるいは東北を拠点として活動するアーティストたちが選ばれている。東日本大震災がもたらした衝撃が、彼らの作品制作の根本的な動機になっているのは確かであり、それをどのように受け止め、投げ返していくかという、真摯な問いかけがそれぞれの作品に結晶していた。
特に印象に残ったのは、平間至の「光景」(2011~16)である。震災直後から撮り続けられた、モノクローム写真の「心象風景」が淡々と並ぶ展示の反対側の壁面は、天井近くまで黒く塗られている。それは彼の故郷の宮城県塩竈市を襲った、4メートルを超える津波の高さだという。その黒い壁のさらに上に、平間が2012年から塩竈で開催している「GAMA ROCK」を訪れたミュージシャンたちのポートレートが並ぶ。苦い記憶と希望とが交錯する、よく練り上げられた展示だった。
2016/11/15(飯沢耕太郎)