artscapeレビュー

村山康則/Rieko Honma「raison d’être─存在理由」

2017年02月15日号

会期:2017/01/21~2017/01/29

BankART Studio NYK/1F Mini Gallery[神奈川県]

村山康則とRieko Honmaは、2015年にパシフィコ横浜で開催された「御苗場vol.16」に参加していた。互いの作品に共感を抱いた2人は、2年後に写真展を共催しようと考える。それが今回のBankART Studio NYKでの展示に結びついていくことになった。「raison d’être─存在理由」というタイトルには、「私たち自身の社会の中での在り方、なぜ写真を撮るのか、なぜArtが必要か、さまざまな理由を自らの視点から見つめ直し、もう一歩踏み込みもう一歩超えて行けるように」という思いが込められているという。
Honma の展示のメインは「cube」のシリーズで、透明なガラスの箱をいろいろな場所に置き、その中にモデルを入れてポーズをとらせている。箱を配置する空間の設定、撮影の条件の選び方、モデルのポージングなどがよく考えられていて、破綻がない作品に仕上がっていた。ただ、モデルがすべて若い女性であり、シチュエーションもほぼ均一で、予想の範囲に留まっているのがやや物足りない。可能性のある作品なので、さらに大胆に、予想がつかないような展開を盛り込んでいく工夫が必要になりそうだ。
村山の「T.L.G.B」も、コンセプトを先行させたシリーズである。都市空間の中で、頭上から光が下に落ちてくるような場所をあらかじめ選び、そこに誰かがちょうど通りかかった瞬間を狙ってシャッターを切る。あたかも舞台のスポットライトのような光の効果がドラマチックに作用して、見ごたえのある場面が写し取られていた。一枚だけ、自分自身がモデルとなって画面の中に入り込んだ写真があって、その「女装する」という意表をついた設定も効果的だった。写真の大きさ、フレーミングの処理など、最終的な展示効果をもう少し丁寧に押さえていけば、いいシリーズになっていくのではないかと思う。
Honmaや村山のような、次のステージに出て行こうとしている写真家にとって、このような展覧会の企画は、とてもよいステップアップの機会になる。次は「もう一歩」作品世界の内容を深めて、ぜひそれぞれの個展を実現してほしい。

2017/01/24(火)(飯沢耕太郎)

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