artscapeレビュー
プレビュー:みちのくがたり映画祭──「語り」を通じて震災の記憶にふれる──
2017年02月15日号
会期:2017/03/02~2017/03/04
フラッグスタジオ[大阪府]
身体を通して震災の記憶に触れ継承するプロジェクト/パフォーマンス公演『猿とモルターレ』(演出・振付:砂連尾理)の関連プログラムとして開催されるドキュメンタリー映画祭。東日本大震災以降の東北に暮らす人々の「語り」に耳を傾けながら、記録し続ける映画監督・作家たちの作品計4本を紹介する。上映作品は、「波のした、土のうえ」(監督:小森はるか+瀬尾夏美)、「ちかくてとおい」(監督:大久保愉伊)、「なみのこえ 気仙沼編」(監督:酒井耕・濱口竜介)、「うたうひと」(監督:酒井耕・濱口竜介)。
「波のした、土のうえ」は、岩手県陸前高田市で暮らしていた人々と、アートユニット・小森はるか+瀬尾夏美の協働による作品。人々が語る言葉と風景の3 年8 ヶ月の記録を、物語を起こすように構成している。被写体となる地元住民へのインタビューを元に、瀬尾が書き起こした物語を、もう一度本人が訂正や書き換えを行ないながら、朗読する。その声と町の風景を重ねるように、小森が映像を編集する。また、「ちかくてとおい」は、津波で大きな被害を受けた岩手県大槌町で生まれ育った映画作家・大久保愉伊による作品。かつて町があった場所は、かさ上げ工事のために土に埋もれてしまう。大久保は、震災後に生まれた姪へ向けて、彼女が大人になる頃には消えてしまう風景について、映画で伝えようとする。さらに、「なみのこえ 気仙沼編」「うたうひと」は、酒井耕・濱口竜介の共同監督による東北記録映画三部作の第二部と第三部である。第二部「なみのこえ 気仙沼編」は、気仙沼で生きる人々どうしの「対話」を記録。百年後、この映画に収められた声は「死者の声」になり、波に消えた声と未来で繋がっていることを祈って制作された。「うたうひと」では、古来より口伝えで受け継がれてきた民話の「語り手」と「聞き手」の関係が、創造的なカメラワークによって記録され、スクリーンに再現される。
4作品の上映を通して、声による伝承、「語ること」「聞くこと」の身体的プロセスそのものを俎上にのせることで、単に「震災の記録」であることを超えて、「ドキュメンタリー」の成立基盤それ自体を再検証する視座をひらく機会となるだろう。
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