artscapeレビュー
梅佳代『白い犬』
2017年02月15日号
発行日:2016/12/22
梅佳代はよく、岩合光昭や星野道夫のような動物写真家たちの仕事に対して、憧れや共感の思いを語ってきた。彼女の「日常スナップ」と動物写真とは、かなり違っているように思えるが、たしかに被写体に対する距離感の測り方、シャッターを切るタイミングのつかみ方など、共通性もありそうだ。そんな梅佳代の「初の動物写真集」が本書『白い犬』である。
被写体になっているのは、彼女が18歳で写真学校に入った頃に、弟が野球部の寮から拾って来たという「白い犬」。リョウと名づけられたその犬は、石川県能登町の実家の飼い犬となる。それから17年間、帰省の度に折に触れて撮り続けた写真群が写真集にまとまった。それらの写真を見ていると、被写体との絶妙な距離感を保ちつつ、「シャッターチャンス」を冷静に判断していく梅佳代の能力が、ここでも見事に発揮されているのがわかる。リョウは時にはユーモラスな表情で、時には哀愁が漂う姿で、また意外に獰猛な野生の顔つきで、いきいきと捉えられている。どこにでもいそうな雑種の犬の、何でもない振る舞いから、奇跡のような瞬間が引き出されてくるのだ。身近だが、異質な「いのち」のあり方を写真によって問い直す、いい「動物写真集」になっていた。
この写真集は、名作『じいちゃんさま』(リトルモア、2008)の続編ともいえる。普段の瞬発的な「日常スナップ」の集積とは違って、『じいちゃんさま』のような長期にわたって撮り続けられたシリーズには、ゆったりとした時間の流れが醸し出す、民話のような物語性が生じてくる。梅佳代のなかに、「物語作家」という新たな鉱脈が形をとりつつあるのではないだろうか。
2017/01/25(水)(飯沢耕太郎)