artscapeレビュー
川口和之「PROSPECTS」
2017年09月15日号
会期:2017/07/22~2017/08/06
川口和之は1958年、兵庫県姫路市生まれ。1977年に写真家集団Photo Streetを結成し、その中心メンバーとして主に路上の光景を撮影・記録し続けてきた。写真集として『Only Yesterday』(蒼穹舎、2010)、『沖縄幻視行』(同、2015)などがある。
今回展示された「PROSPECTS」(2011~17)は、川口にとっては身近な地域である大阪府から岡山県にかけて、つまり明治以前の呼称でいえば、摂津、播磨、丹波、但馬、淡路、備前あたりの眺めを、淡々と、感情移入することなく撮影したシリーズである。それらの写真を見ていると、いま日本の地方都市を覆い尽くそうとしている、「穏やかな滅び」の気配が色濃くあらわれていることに気がつく。歯が抜けたように空き地が目立つ商店街、まったく人気のない街並、白々とした舗装道路、妙にポップな看板、建て増しでアンバランスになってしまった家々──川口は、それらの見方によってはネガティブで物寂しい光景を、4000万画素を超えるデジタルカメラで、細部まで丁寧に写しとっていく。
モノクロームという選択肢もあったはずだが、あえてカラープリントに仕上げたのがよかったのではないだろうか。モノクロームだと情緒的に見えかねない街の眺めの、なんとも言いようのない身も蓋もなさが、ありありと提示されているからだ。それはまさに、2010年代後半の日本のPROSPECTS(眺望、予兆、展望)そのものといえる。なお展覧会にあわせてPhoto Streetから同名の写真集が刊行された。素っ気ないレポート風の装丁が、掲載されている写真の内容とうまくマッチしている。
2017/07/23(日)(飯沢耕太郎)